Psychedelic Science 2025が示すサイケデリック療法の未来

Psychedelic Science 2025 ビジネス

サイケデリック医学の分野が急速に発展する中、世界最大規模のPsychedelic Science 2025が注目を集めています。本記事では、6月16日から20日にかけてデンバーで開催されるこの重要な会議について、その歴史的意義から最新のプログラム内容、参加企業まで詳しく紹介します。

結論:Psychedelic Science 2025はサイケデリック療法の商業化と社会統合を加速する転換点

サイケデリック療法の転換点

Psychedelic Science 2025は、サイケデリック療法が実験段階から臨床現実へと移行する重要な転換点として位置づけられます。実際に、MAPSが主催するこの会議は、7000人以上の参加者と600人以上のスピーカーを集め、科学研究、政策、ビジネス、文化の全分野でサイケデリックの統合を推進する場となっています。さらに、コロラド州での開催により、サイケデリック療法の合法化モデルを世界に示す機会ともなっています。

サイケデリック・サイエンス会議の歴史的発展と運営組織の役割

Psychedelic Science 2025

Psychedelic Science会議シリーズは2010年に始まり、今回で第5回目を迎えます。初回のPsychedelic Science 2010は、カリフォルニア州サンノゼで開催され、約800人の参加者を集めました。この会議は、Multidisciplinary Association for Psychedelic Studies(MAPS)、Heffter Research Institute、Beckley Foundation、Council on Spiritual Practicesの共催により実現しました。特に注目すべきは、これが17年ぶりにアメリカで開催された最大規模のサイケデリック専門会議だったことです。

MAPSは1986年に設立された501(c)(3)非営利研究教育機関です。また、サイケデリックと大麻の有益な使用のための医学的、法的、文化的文脈の発展に取り組んでいます。組織設立以来、慈善団体や助成団体から1億5000万ドル以上の寄付を受け、サイケデリック研究の推進、薬物政策の変更、文化の形成を支援してきました。

初回会議では、継続医学教育(CME)と継続教育(CE)の単位が提供されました。その結果、医師、精神科医、心理学者、看護師、ソーシャルワーカーが参加し、専門的な知識を深めることができました。また、国際的なサイケデリック研究者が互いの継続的な研究を共有し、探求し、学び合うための研究者セミナーも含まれていました。このセミナーでは、理想的な治療セッションの実施方法、プロトコルの目的と開発、患者の安全性について議論されました。

Psychedelic Science 2025の開催概要とプログラム構成

2025年の会議は「The Integration(統合)」をテーマに掲げ、6月16日から20日までコロラド州デンバーのコロラド・コンベンションセンターで開催されます。参加者数は過去最大の7000人以上を予定し、600人を超えるスピーカーが登壇する予定です。一方で、10万平方フィート以上の出展スペースと10以上のステージが設置され、数百のセッションが同時開催されます。

プログラムは14の専門トラックに分かれており、以下の領域を網羅しています。科学・研究トラックでは、臨床試験、自然主義的使用、リスクと安全性、世論、健康とウェルネス、宗教と精神性、グローバル文化にわたる新しい研究が発表されます。同時に、重篤な精神疾患や神経疾患の治療におけるサイケデリックの可能性を研究する臨床試験からの発見と最新情報も共有されます。

治療・臨床トラックでは、摂取から統合まで、臨床医とファシリテーターのための深い議論が行われます。このトラックには、エビデンスに基づく実践、教育と訓練、倫理と説明責任、ケアの提供に関する批判的な観点が含まれます。政策・法律トラックでは、サイケデリックへの安全で責任あるアクセスと禁止後社会を創造し管理するために必要な立法、司法、規制の基盤について議論されます。

ビジネストラックでは、金融、薬物開発、規制、クリニックとサービスセンター、技術、コミュニティ機関を含む、サイケデリックへの安全で責任あるアクセスを拡大するためのインフラについて検討されます。このトラックは、サイケデリック療法の商業化に向けた実践的な課題に焦点を当てています。

著名スピーカーと多様な専門分野の融合

2025年の会議には、政策立案者、研究者、退役軍人、セラピスト、思想リーダーが集結します。注目すべきスピーカーには以下の方々が含まれます。政治・政策領域から、Tim Ryan(元米国下院議員、オハイオ州、Celtic Consultingの社長兼CEO)、Kyrsten Sinema(元米国上院議員、アリゾナ州、精神保健と退役軍人問題に関する活動で知られる)が参加します。

Tim Ryan(元米国下院議員、オハイオ州、Celtic Consultingの社長兼CEO)
Tim Ryan(元米国下院議員、オハイオ州、Celtic Consultingの社長兼CEO)

学術・臨床研究領域では、Bessel van der Kolk(著名な精神科医・トラウマ専門家、ベストセラー『身体はトラウマを記録する』の著者)、Harriet de Wit(シカゴ大学精神医学・行動神経科学教授)、Paul Stamets(マイコロジストで真菌研究の第一人者)が登壇予定です。これらの専門家は、サイケデリック研究の科学的基盤を築いてきた重要な人物です。

Bessel van der Kolk(著名な精神科医・トラウマ専門家、ベストセラー『身体はトラウマを記録する』の著者
Bessel van der Kolk(著名な精神科医・トラウマ専門家、ベストセラー『身体はトラウマを記録する』の著者

産業・ビジネス領域からは、Doug Drysdale(Cybin社CEO)、Amy Emerson(Lykos Therapeuticsの創設者・元CEO)など、サイケデリック医学の商業化を推進するリーダーたちが参加します。これらのスピーカーは学際的な対話を重視する会議のコミットメントを体現しており、科学、医学、政策、文化の境界を越えた議論を促進します。

Amy Emerson(Lykos Therapeuticsの創設者・元CEO)
Amy Emerson(Lykos Therapeuticsの創設者・元CEO)

主要スポンサー企業と出展企業の動向

サイケデリック関連企業の動向

Psychedelic Science 2025には、100を超える出展企業が参加し、サイケデリック研究、療法、文化の現在の状況を包括的に紹介します。出展企業のラインナップには、大手製薬会社、研究機関、治療プロバイダー、アドボカシー組織、テクノロジー企業が含まれています。

製薬・バイオテクノロジー企業では、Lykos Therapeutics(旧MAPS Public Benefit Corporation)がMDMA支援サイケデリック療法をPTSD治療に向けて開発を続けています。最近の規制上の課題にもかかわらず、同社は臨床プログラムを推進しています。Cybin(カナダ企業)は、重度うつ病を対象とした第3相臨床試験で、重水素化シロシビンアナログのCYB003を進展させています。同社CEOのDoug Drysdaleは、「ピボタル試験と市場投入の準備:最終段階」というパネルディスカッションに参加予定です。

Atai Life Sciences(ベルリン拠点)は、アルケタミンやイボガイン誘導体を含む多様なサイケデリック化合物のパイプラインに取り組み、様々な精神健康状態の治療を目指しています。一方、Eleusis(英国拠点)は、特に眼科学的応用におけるサイケデリックの抗炎症特性を調査しています。

支援組織・技術企業では、サイケデリック療法の訓練、害の軽減、政策提言、コミュニティ構築に専念する組織からの出展も予定されています。Supeflyが会議の運営をファシリテートし、同社はBonnarooやOutside Landsなどの象徴的なイベントの制作で知られています。これにより、会議は学術的な内容と文化的な要素を巧みに組み合わせた体験を提供します。

Lykos Therapeutics(旧MAPS Public Benefit Corporation)
Lykos Therapeutics(旧MAPS Public Benefit Corporation)

コロラド州開催の戦略的意義とサイケデリック療法の合法化

コロラド州開催の戦略的意義とサイケデリック療法の合法化

コロラド州での開催は偶然ではありません。同州は2022年にNatural Medicine Health Actを可決し、特定のサイケデリックを非犯罪化し、シロシビンサービスのための規制枠組みを確立しました。これは、すでに10,000回以上の合法的なサイケデリック支援治療セッションを促進したオレゴン州に次ぐ法的モデルです。

MAPSの暫定共同エグゼクティブディレクターであるIsmail Lourido Aliは、コロラド州での開催について次のように述べています。「成人がサイケデリックを娯楽目的で合法的に使用できるコロラド州で5日間のイベントを開催することは、多くの支持者が見たいと思っている種類の政策を『生きている』州を紹介する機会である」。

コロラド州は今春、数年間の計画を経て、サイケデリック療法プログラムのためのヒーリングセンターと治療プロバイダーのライセンス発行を開始しました。この背景により、PS2025は安全で倫理的、公平にこれらの人生を変える治療を拡大するための青写真を提供することができます。さらに、連邦議員や州議員20人以上が参加し、その中にはコロラド州でライセンスを受けた治療センターのツアーに参加する予定の議員も含まれています。

研究発表とワークショップの内容

会議では、6月16日と17日にワークショップが、6月18日、19日、20日に10以上のステージでの数百のセッション、10万平方フィート以上の出展スペース、数十のワークショップ、そして街全体で開催される多数のネットワーキングと社交イベントが予定されています。

クリニカルセッションでは、がんに関連するサイケデリック支援療法について、Manish Agrawal医師がSunstone Therapiesの共同創設者兼CEOとして、シロシビンを使用してがん患者が直面する心理的・実存的苦痛に対処する新興研究と臨床洞察を発表します。特に注目されるのは、従来の2人のセラピストと1人の患者という形式を超えた代替的な治療提供形式の研究です。この中には、がん患者と家族メンバーをMDMAで同時に治療する「ダイアド研究」と呼ばれる革新的なアプローチも含まれています。

政策セッションでは、連邦議員や州議員20人以上が参加し、その中にはコロラド州内外の両党の議員が含まれます。これらの議員の一部は、コロラド州でライセンスを受けた治療センターのツアーに参加する予定です。このような政策立案者の直接的な関与は、サイケデリック療法の法的枠組み構築において極めて重要です。

ビジネスセッションでは、サイケデリック特化のベンチャーキャピタルファンドが2025年にスタートアップをどのように評価しているかについて議論されます。リスク許容度の変化、更新された投資理念、現在ターム・シートを獲得するために必要な条件について、業界のリーディング投資家たちが議論します。また、規制承認から市場投入への移行に関する実践的な課題についても検討されます。

展示会とコミュニティイベント

展示ホールは単なる企業展示を超えた体験を提供します。インタラクティブなインスタレーション、ビジョナリーアート展示、没入型体験が含まれ、学問分野と文化を越えた統合という会議のテーマを反映しています。展示ホールには、コミュニティパートナーからのプログラムや講演を特集する展示ステージ、科学的ポスター発表、サイケデリック書店も設置されます。参加者は6月18日から20日まで出展者と関わり、サイケデリックの多面的な世界を探索する十分な機会を得られます。

コミュニティイベントでは、会議期間中にデンバー市内で多数のミートアップ、パーティー、アクティベーションが開催され、つながり、発見、遊びの機会を提供します。これらのイベントは独立して開催され、公式のPsychedelic Science 2025プログラムの一部ではありませんが、美しいサイケデリックコミュニティを一週間にわたって楽しい体験でまとめます。特に注目されるのは、退役軍人、初回対応者、その家族のための「Operation Inner Peace」というイベントで、サイケデリック・ヒーリングをこれらのコミュニティに提供する成長する運動について焦点を当てます。

サイケデリック産業の現状と今後の課題

2025年の会議は、サイケデリック医学分野の現実的な評価を反映しています。昨年、Food and Drug AdministrationがMAPS分社のLykos TherapeuticsのMDMA支援療法に関するNew Drug Applicationを却下し、Psychedelic Science 2023で高まった治療の合法化と拡大への期待が挫折しました。しかしながら、この挫折は業界の終わりを意味するものではありません。むしろ、より現実的で持続可能なアプローチへの転換点として機能しています。

会議組織者は「私たちはサイケデリックの伝道師ではありません。すべての人がそれらを行うべきだとは思いません」と述べ、現実的な期待設定の重要性を強調しています。規制承認は重要なマイルストーンですが、それは始まりに過ぎません。サイケデリック支援療法が現実世界により近づくにつれ、企業は臨床試験から市場投入計画への転換に備える必要があります。スマートな商業化戦略の策定、プロバイダーの訓練、患者需要への対応準備が求められています。

保険適用の問題も重要な課題として浮上しています。Enthea CEOのSherry Rais、UC Berkeley経済学研究者のBrandon Truax、TARA Mind CEOのMarcus Capone、Magnatar AccessのMartin Gisbyなどの専門家が、保険適用と適切な償還について議論します。この問題は、サイケデリック療法の持続可能な商業化にとって極めて重要です。

国際的な展開と多様性の推進

会議は国際的な視点も重要視しており、ヨーロッパ、アジア、オーストラリアからの研究者や政策立案者も参加します。Psychedelic Access and Research European Alliance(PAREA)の創設者兼エグゼクティブディレクターであるTadeusz Hawrotや、オーストラリア初のサイケデリック研究プログラムの責任者であるPaul Liknaitzky(モナシュ大学)など、グローバルな専門家が知見を共有します。

また、会議はコミュニティの多様性と包摂性を重視しており、退役軍人、先住民コミュニティ、LGBTQ+コミュニティなど、様々な背景を持つ参加者の視点を統合することを目指しています。「植物医学がシステミックで対人的な人種差別、トラウマ、搾取からのヒーリングで黒人コミュニティをどのようにサポートできるか」についての半日シリーズなど、社会正義と癒しの交差点に焦点を当てたセッションも含まれています。先住民の知恵と主権を尊重しながら、現代医学との適切な統合を図ることが重要なテーマとなっています。

まとめ:サイケデリック療法の成熟期における統合と持続可能な発展

Psychedelic Science 2025は、サイケデリック医学分野が実験的な研究段階から商業的現実への移行期にあることを明確に示しています。MAPSが2010年から継続してきたこの会議シリーズは、科学研究、政策立案、ビジネス開発、文化的統合の全領域でサイケデリックの可能性を実現するための重要なプラットフォームとなっています。

コロラド州デンバーでの開催は、サイケデリック療法の合法化と規制化が進む地域でのケーススタディとして機能し、他の州や国々への模範を提供します。オレゴン州とコロラド州での先進的な取り組みは、サイケデリック療法の安全で効果的、公平な実装のための青写真を世界に示しています。

7000人以上の参加者と600人以上のスピーカーが集う規模は、この分野の急速な成長と成熟を反映しています。しかし、最近のLykos TherapeuticsのMDMA支援療法承認申請の却下が示すように、業界は過度な楽観主義から現実的で持続可能なアプローチへの調整期にあります。

今後のサイケデリック療法の発展には、厳格な科学的研究、適切な規制枠組み、効果的な治療者訓練、公平なアクセス、そして社会の理解と受容が不可欠です。Psychedelic Science 2025は、これらすべての要素を統合し、サイケデリック療法の次の発展段階への道筋を描く重要な機会となっています。

Doblin, R. (2024, February 13). Psychedelic Science 2025 – the Fifth and Largest Psychedelic Conference in History – Announced for June 16-20 2025 in Denver, Colorado. Multidisciplinary Association for Psychedelic Studies. https://maps.org/2024/02/13/psychedelic-science-2025-save-the-date/

MAPS. (2025, March 7). Psychedelic Science 2025 Announces Select Speakers for the Leading Conference on Psychedelic Research, Policy, and Thought Leadership. Multidisciplinary Association for Psychedelic Studies. https://maps.org/2025/03/07/psychedelic-science-2025-announces-select-speakers-for-the-leading-conference-on-psychedelic-research-policy-and-thought-leadership/

Psychedelic Science 2025. (2025). Conference Overview. https://www.psychedelicscience.org/

本記事は情報提供のみを目的としており、医療アドバイスではありません。
精神的・身体的な問題を抱えている方は、必ず医療専門家にご相談ください。
また、日本国内でのサイケデリック物質の所持・使用は法律で禁止されています。

この記事を書いた人
Yusuke

米国リベラルアーツカレッジを2020年心理学専攻で卒業。大手戦略コンサルティングファームにて製薬メーカーの営業・マーケティング戦略立案に従事するなかで、従来の保険医療の限界を実感。この経験を通じて、より根本的な心身のケアアプローチの必要性を確信し、現在はオレゴン州認定プログラムInnerTrekにてサイケデリック・ファシリテーターの養成講座を受講中(2025年資格取得予定)。

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