自然なサイケデリック使用が精神的健康に与える影響について、これまでにない大規模な縦断研究が新たな警鐘を鳴らしています。本記事では、21,990人を対象とした最新研究から明らかになった、サイケデリック使用に伴うリスク要因とその対策について詳しく紹介します。
サイケデリック使用は違法環境で精神症状を悪化させる

近年注目を集めているサイケデリック療法ですが、医療監督下ではない自然な使用環境では、重大なリスクが存在することが大規模研究により明らかになりました。特に重要な発見は、違法な環境でのサイケデリック使用が精神病症状と躁症状の両方を悪化させるという点です。
この研究は、アメリカの21,990人を対象とした縦断研究で、2ヶ月間にわたってサイケデリック使用と精神症状の変化を追跡調査したものです。研究結果では、違法な環境でサイケデリックを使用した参加者において、精神病症状と躁症状の重症度が有意に増加することが確認されました。
一方で、合法的なリトリートや、非犯罪化された環境でのサイケデリック使用では、このような症状の悪化は観察されませんでした。この違いは、使用環境が精神的健康に与える影響の重要性を示唆しています。
統合失調症と双極性障害患者で特にリスクが高い
研究では、特定の精神疾患の既往歴を持つ人々において、サイケデリック使用によるリスクがより顕著に現れることが判明しました。具体的には、統合失調症または双極性障害I型の個人歴がある参加者では、サイケデリック使用後に躁症状の重症度がより大きく増加することが確認されています。
この発見は、現在の臨床試験で実施されている除外基準の妥当性を支持するものです。多くのサイケデリック療法の臨床試験では、統合失調症や双極性障害の個人歴または家族歴を持つ参加者を除外しており、この研究結果はその判断が適切であることを示しています。
さらに、統合失調症型人格障害の既往歴を持つ参加者も、躁症状の増加リスクが高いことが明らかになりました。これは、特定の遺伝的プロファイルを持つ集団において、サイケデリック使用が禁忌となる可能性を示唆しています。
使用頻度と体験の質が症状に影響する

研究では、サイケデリック使用の頻度と体験の質が、その後の精神症状に大きく影響することも明らかになりました。より頻繁にサイケデリックを使用した参加者では、精神病症状の増加がより顕著に見られる傾向がありました。
また、サイケデリック体験中の困難な経験の重症度は、精神病症状の悪化と関連していることが確認されています。一方で、サイケデリック体験中の洞察の主観的経験は、躁症状の増加と関連することが判明しました。これらの発見は、単にサイケデリックを使用するかどうかだけでなく、どのような状況で、どのような体験をするかが重要であることを示しています。
医療監督下との違いが浮き彫りになる安全性の格差
この研究結果は、医療監督下でのサイケデリック療法と自然な使用環境との間に存在する大きな安全性の格差を浮き彫りにしています。現在進行中の臨床試験では、サイケデリック療法が比較的安全で効果的であることが示されており、うつ病や不安障害の治療において有望な結果が報告されています。
環境要因の重要性
違法な環境でのサイケデリック使用が症状悪化と関連している理由として、研究者らは複数の可能性を挙げています。まず、法的な結果への恐怖によるストレスや不安が、サイケデリック体験中の心理状態に悪影響を与える可能性があります。また、違法市場で入手される物質の純度や効力の違いも、結果に影響を与える要因として考えられます。
さらに、研究参加者の多くが、心理的サポートの欠如や不適切な心的状態など、困難なサイケデリック体験と関連する環境要因を報告していました。これは、適切な準備とサポートなしにサイケデリックを使用することのリスクを示しています。
ハームリダクションの必要性

この研究結果は、サイケデリック使用におけるハームリダクション戦略の重要性を強調しています。ハームリダクションとは、物質使用を完全に止めることを前提とせず、使用に伴うリスクや害を最小限に抑えることを目的とした公衆衛生アプローチです。もし個人がサイケデリックの使用を選択する場合、まず、使用環境の法的地位を確認し、可能な限り安全で支援的な環境を選択することが大切です。次に、精神疾患の既往歴、特に統合失調症や双極性障害の歴史がある場合は、使用を避けることが強く推奨されます。また、適切な心理的サポートと準備を確保し、困難な体験に対処するための戦略を準備することも重要です。
セットとセッティングの重要性
サイケデリック研究において、「セット」と「セッティング」は体験の質と安全性を決定する最も重要な要因とされています。セットとは使用者の心理的状態、つまり気分、期待、不安レベル、精神的準備状態を指します。一方、セッティングは物理的環境と社会的環境、すなわち使用する場所の安全性、同伴者の存在、雰囲気などを含みます。
今回の研究では、多くの参加者が心理的サポートの欠如や不適切な心的状態でサイケデリックを使用していたことが報告されており、これらの要因が困難な体験や症状悪化につながった可能性があります。適切なセットを確保するためには、使用前に十分な休息を取り、ストレスレベルを下げ、ポジティブで開放的な心理状態を作ることが重要です。
セッティングに関しては、安全で快適な環境、信頼できる同伴者の存在、緊急時の対応計画などが不可欠です。研究結果が示すように、違法な環境での使用は法的リスクへの恐怖により心理的ストレスを増大させ、結果として体験の質を悪化させる可能性があります。このため、可能な限り合法的または非犯罪化された環境での使用が推奨されます。
今後の研究への示唆と課題

この研究は、サイケデリック研究分野において重要な進歩を示していますが、同時にいくつかの限界も存在します。まず、自然なサイケデリック使用を報告した参加者の数が比較的少なく、特に特定の精神疾患既往歴を持つ参加者の数はさらに限られていました。
遺伝的バイオマーカーの開発
研究者らは、サイケデリック使用の適否を判断するための遺伝的バイオマーカーの開発可能性について言及しています。特定の遺伝的プロファイルを持つ集団において、サイケデリック使用が禁忌となる可能性があることから、将来的には個別化された推奨事項の提供が可能になるかもしれません。
症状変化の臨床的意味
この研究では、観察された症状の増加が臨床的にどの程度重要であるかについては評価されていません。精神病症状の増加が創造性の向上を反映している可能性や、躁症状の増加が以前のうつ状態からの改善を示している可能性も考えられます。今後の研究では、これらの症状変化の臨床的意味をより詳細に検討する必要があります。
長期的な影響の調査
現在の研究は2ヶ月間の追跡調査に基づいていますが、サイケデリック使用の長期的な影響については不明な点が多く残されています。今後は、より長期間にわたる追跡調査や、医師による症状評価を含む研究が必要とされています。
まとめ:サイケデリック研究が示す安全使用への道筋
この大規模縦断研究は、サイケデリック使用に関する重要な洞察を提供しています。主要な発見として、違法な環境でのサイケデリック使用が精神病症状と躁症状の悪化と関連すること、特定の精神疾患既往歴を持つ個人でリスクが高いこと、使用頻度と体験の質が結果に影響することが明らかになりました。
これらの結果は、サイケデリック療法の安全な実施における医療監督と適切な環境設定の重要性を強調しています。同時に、自然な使用環境におけるハームリダクション戦略の必要性も示唆されています。
サイケデリック療法が精神医療の新たな選択肢として期待される中で、このような研究は安全で効果的な治療法の確立に向けた重要な基礎データを提供しています。今後も継続的な研究により、サイケデリックの治療的可能性を最大化しながら、リスクを最小化する方法の解明が進むことが期待されます。
Simonsson, O., Goldberg, S. B., Osika, W., Stenfors, C. U. D., Chaturvedi, S., Swords, C. M., Narayanan, J., & Hendricks, P. S. (2025). Longitudinal associations of naturalistic psychedelic use with psychotic and manic symptoms. Psychological medicine, 55, e99. https://doi.org/10.1017/S0033291725000716
本記事は情報提供のみを目的としており、医療アドバイスではありません。
精神的・身体的な問題を抱えている方は、必ず医療専門家にご相談ください。
また、日本国内でのサイケデリック物質の所持・使用は法律で禁止されています。