2026年前半に結果発表が予定されているVoyage試験(MM120-300)が、精神医療の歴史を変える可能性を秘めています。この革新的なPhase 3臨床試験は、全般性不安障害に対するサイケデリック療法の有効性を科学的に証明する重要な節目となります。本記事では、Voyage試験の詳細と、それが示すサイケデリック療法の未来について詳しく紹介します。
Voyage試験が示すサイケデリック療法の革新性

Voyage試験(MM120-300)は、全般性不安障害(GAD)に対するサイケデリック療法の有効性を科学的に証明する世界初のPhase 3臨床試験として、医学界の注目を集めています。この試験は、従来の精神医療では実現できなかった根本的な治療効果をもたらす革新的なアプローチの可能性を探求しており、特に注目すべきは、単回投与で長期間にわたる治療効果が期待できる点です。
現在、全般性不安障害の既存治療では、約50%の患者が一次治療で十分な効果を得られず、治療抵抗性の問題が深刻化しています。Voyage試験で検証されるMM120 ODTは、脳内のセロトニン-2A受容体に作用し、神経可塑性を高めることで、これらの難治性疾患に対する新たな治療選択肢となることが期待されています。これまでの「毎日服薬する」という治療パラダイムを根本から変える可能性を持つ画期的な試験なのです。
MindMed社:Voyage試験を率いるパイオニア企業

Voyage試験への道のり
MindMed社は、精神疾患治療薬の開発に特化した製薬企業です。同社は現在、臨床試験の最終段階に進んでおり、特に全般性不安障害(GAD)の治療に焦点を当てています。Voyage試験は、同社の長年の研究開発の集大成といえる重要な臨床研究です。
2024年第4四半期にVoyage試験が開始されました。現在は200名の患者を対象とした大規模な臨床試験が進行中で、2026年上半期の結果発表に向けて着実に進んでいます。この試験結果は、精神医療の未来を大きく左右する可能性があります。
MM120 ODT:Voyage試験の中核を担う革新的治療薬

Voyage試験で検証される薬剤は「MM120 ODT」です。これは、サイケデリックの一種であるLSDを医薬品として最適化した画期的な治療薬となります。従来のLSDとは異なり、医療用として安全性と有効性を追求した製剤とのことです。
この薬剤の最大の特徴は、舌の上で5秒以内に溶解することだと言います。この技術により、より早く体内に吸収され、胃腸への負担も軽減されます。患者にとって服用しやすい形になっているのです。
作用機序的観点では、MM120 ODTは、脳内のセロトニン受容体に作用します。これにより、脳の異なる領域間の連携が活発になり、新しい神経回路の形成が促進されます。その結果、不安症状の根本的な改善が期待できるとされています。
Phase 2bからVoyage試験設計への科学的根拠

Phase 2b試験が示した画期的な結果
Voyage試験の設計は、MindMed社が以前に行った臨床試験の優れた結果がベースになっています。この前段階の試験では、MM120 ODTを100μg投与したところ、従来の治療薬を大幅に上回る効果が確認されました。
特に注目すべき結果がいくつかあります。
- 即効性:投与から24時間以内に症状が大幅に改善(統計的に非常に有意)
- 持続性:12週間後でも不安症状が大きく改善(従来薬の2倍以上の効果)
- 高い治癒率:12週時点で参加者の約半数(48%)が症状の大幅改善を達成
- 優れた治療効果:従来の抗不安薬と比べて格段に高い治療効果を記録
これらの結果により、MM120 ODTが従来の治療薬よりもはるかに優れていることが証明されました。Voyage試験は、この優れた効果をより多くの患者で再確認することを目指しています。
Voyage試験設計の科学的合理性

Voyage試験の設計は、前回の試験で実証された治療効果を確実に再現することを重視しています。より多くの患者での有効性確認が主な目的です。
- 効果測定の方法:不安症状を数値化する国際標準の評価尺度を使用
- 投与量:前回最も効果的だった100μgを採用
- 対象患者:中等度以上の不安症状を持つ患者200名
- 観察期間:12週間の効果確認期間と40週間の長期フォロー期間
この設計により、Voyage試験は単発的な効果だけでなく、長期間続く治療効果も科学的に評価できます。サイケデリック療法の真の価値を実証する重要な試験となっているのです。
全般性不安障害治療の課題とVoyage試験の解決策

全般性不安障害とは何か
全般性不安障害(GAD)は、毎日の生活の中で漠然とした不安や心配を慢性的に持ち続ける疾患です。通常の心配とは異なり、明確な理由がないのに不安が起こり、一定期間以上持続する病的な不安が特徴となります。
この疾患の患者は、仕事上および家庭内での責任、金銭、健康、安全など、複数の心配事を同時に抱え、それらの心配事は時間とともに変化することが多いとされています。重要なのは、持続的で程度も過剰であり、本人が思うようにコントロールできない不安であることです。
症状は精神面だけでなく身体面にも現れます。絶えずいらいらし、震え、筋肉の緊張といった運動性緊張症状や、発汗、頭のふらつき、動悸、めまいなどの自律神経症状が見られることが多く、これらの症状により日常生活に大きな支障をきたします。
世界規模での深刻な治療ギャップ
現在の不安障害治療には世界規模で大きな問題があります。米国では2600万人が不安障害に苦しんでおり、日本での有病率は1.2%で、女性に多く、男性の倍以上とされています。しかし十分な治療法がないのが現状で、2007年以降、新しい治療薬の承認がないことがその証拠といえるでしょう。
既存治療法には複数の深刻な問題があります。まず効果の限界として、現在の薬の約半数は患者に効果がなく、効果が出るまで数週間から数ヶ月かかってしまいます。服薬の継続も困難で、副作用などにより患者の約半数が4ヶ月以内に服薬をやめてしまいます。
副作用の負担も深刻です。体重増加、性機能の問題、消化器症状などで生活の質が大幅に低下します。さらにベンゾジアゼピン系の薬では依存性の問題が深刻化しており、患者が薬をやめられなくなるリスクがあります。経過は慢性で、日常生活のストレスの影響を受け、よくなったり悪くなったりしながら多くの場合何年にもわたって続きます。
これらの問題により、多くの患者が適切な治療を受けられず、長期間にわたって不安症状に悩まされています。
Voyage試験が提示する革新的解決策
Voyage試験で検証されるMM120 ODTは、これらの問題を根本的に解決する可能性があるとされています。
- 間欠投与の利点:1回の投与で長期間効果が続くため、毎日薬を飲む負担がなくなります
- 即効性:前回の試験では24時間以内に症状改善が確認されており、長い待機期間が不要です
- 高い治癒率:前回試験で約半数の患者が大幅改善を達成し、従来薬を大きく上回りました
- 依存性リスクの回避:間欠投与により、長期服薬による依存性のリスクを最小限に抑えます
- シンプルな治療:薬物単独での治療効果が確認されており、複雑な心理療法が不要です
Voyage試験は、これらの理論的な利点を200名の患者で科学的に証明することを目指しています。成功すれば、不安障害治療の新しい標準となる可能性があります。
Voyage試験の詳細設計と革新的意義

試験設計の特徴
Voyage試験(MM120-300)は、不安障害に対するサイケデリック療法を検証する世界初の大規模臨床試験です。これまでにない革新的な設計が採用されています。
二段階での包括的評価:
- 前半12週間:薬の効果を厳密に検証する期間
- 後半40週間:長期安全性と追加治療の効果を確認する期間
参加者と試験方法:
- 対象:200名の不安障害患者(中等度以上の症状)
- 方法:半数が実薬、半数が偽薬を投与(患者・医師共に薬の種類は不明)
- 年齢:18-74歳の男女
主な評価方法:
- 国際標準の不安症状評価スケールを使用
- 12週時点での症状変化を主要な判定基準とする
重要な追加評価項目:
- 1週時点での急性効果の確認
- 2日時点での早期効果の測定
- 再治療が必要になるまでの期間
Voyage試験の科学的革新性
Voyage試験は、従来の精神科の臨床試験とは根本的に異なるアプローチを採用しています。
新しい治療パラダイムとして、毎日薬を飲む従来の方法ではなく、1回の投与による長期効果を検証します。これは精神科治療の常識を覆す画期的なアプローチです。客観的評価の確保も重要で、サイケデリック効果により患者が薬だと分かってしまう問題を避けるため、独立した専門評価者が症状を判定します。
薬物単独効果の検証により、心理療法を併用せず薬だけの効果を純粋に評価することで、どこでも使える治療法を目指すとのこと。さらに柔軟な試験設計として、途中での症例数調整により統計的な信頼性を維持しながら効率的に試験を進めるとしています。
後半40週間の重要性
さらに、Voyage試験の後半部分は、実際の医療現場での使用方法を明らかにする重要な期間です。
追加治療の検証として、症状が戻った場合(スコア16以上)に最大4回まで追加投与を行い、繰り返し治療の安全性と効果を確認します。継続的な症状監視では、2週間ごと・月1回の定期的な症状チェックにより治療効果の持続期間を詳細に把握します。年間治療回数の把握により、実際にどの程度の頻度で治療が必要かを明らかにし、医療費の算出に重要なデータを提供します。
この後半期間により、Voyage試験は単なる効果の証明を超えて、実際の医療現場でのサイケデリック療法の使い方を確立する画期的な試験となっています。
臨床開発の進展と安全性プロファイル

Voyage試験における投与方法と安全管理
Voyage試験では、これまでの研究で確立された安全で効果的な投与方法が使われています。治療の流れは以下の通りとされています。
治療当日の流れ:
- 開始:MM120 ODTが舌の上で5秒以内に溶解
- 1-6時間:一時的な薬の効果(視覚や感情の変化など)
- 2-3時間目:薬の効果が最も強くなる時間帯
- 4-6時間目:薬の効果が徐々に弱くなる
- 5-8時間:医療スタッフが1時間ごとに患者の状態をチェック
- 6時間以降:通常の感覚に戻る
医療スタッフによる安全管理: 治療中は、専門の医療スタッフ(投与セッションモニター)が常に患者を見守ります。このスタッフは、食事やトイレの介助などの基本的なケアを提供し、患者が安全に帰宅できることを確認してから治療を終了します。心理カウンセリングは基本的に提供されませんが、患者の希望に応じて医師と相談の上で追加することも可能とのことです。
まとめ:Voyage試験が切り開くサイケデリック療法の未来
Voyage試験(MM120-300)は、精神医療の歴史を変える可能性を持つ重要な研究です。不安障害に対するサイケデリック療法の効果を証明する世界初の大規模臨床試験として、この研究は数千万人の患者の治療に革命をもたらすかもしれません。
これまでの研究で確認された優れた治療効果(従来薬の2倍以上の効果、約半数の患者が大幅改善)が、より多くの患者で再現されれば画期的です。MM120 ODTは、従来の治療では効果がなかった重度の不安障害に対する、全く新しい治療選択肢となるでしょう。
1回の投与で長期間効果が続くという画期的な治療方法は、「毎日薬を飲む」という精神科治療の常識を根本から変える可能性があります。これは患者にとって大きな負担軽減となり、治療の継続もしやすくなります。
医療関係者の74%がサイケデリック治療に大きな期待を寄せており、米国FDAからも画期的治療薬として認定されています。このような追い風を受けて、Voyage試験は新しい治療時代の始まりを告げる重要な研究となっています。
2026年上半期に予定されている結果発表は、精神医療の未来を決める歴史的な瞬間になるでしょう。科学的根拠に基づいた安全で効果的な治療法として確立されれば、サイケデリック療法は精神疾患に苦しむ患者にとって希望の光となります。
Voyage試験の成功は、単なる新薬の承認を超えた意味を持ちます。精神医療における治療方法の根本的な変革をもたらし、多くの患者により良い治療を提供できる新しい時代の幕開けとなる可能性を秘めているのです。日本も世界のサイケデリック・ルネサンスに遅れないよう、社会基盤の整備が急務となっています。
Mind Medicine (MindMed) Inc. (2025, April 15). MindMed announces first patient dosed in Phase 3 Emerge study of MM120 in Major Depressive Disorder (MDD) [Press release]. https://ir.mindmed.co/news-events/press-releases/detail/178/mindmed-announces-first-patient-dosed-in-phase-3-emerge-study-of-mm120-in-major-depressive-disorder-mdd
MindMed Corporate Presentation August 2025. https://d1io3yog0oux5.cloudfront.net/_fa575690d46999dba35644a688486c04/mindmed/db/2265/21526/pdf/MindMed+August+2025+Corporate+Presentation.pdf
本記事は情報提供のみを目的としており、医療アドバイスではありません。
精神的・身体的な問題を抱えている方は、必ず医療専門家にご相談ください。
また、日本国内でのサイケデリック物質の所持・使用は法律で禁止されています。