私たちの道徳観や価値観は一生変わらないものだと思っていませんか?2025年の最新研究により、サイケデリック療法の主要成分であるシロシビンが、人々の道徳的判断や他者への共感に劇的な変化をもたらすことが科学的に証明されました。この記事では、ウーロンゴング大学の研究チームが発表した画期的な発見について詳しく紹介します。
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サイケデリック療法が道徳観を拡大する

ウーロンゴング大学の心理学部が2025年3月に発表した研究によると、意味のあるサイケデリック体験を経た人々は、道徳的広がりが有意に増加することが判明しました。道徳的広がりとは、動物や自然環境、価値観の異なる人々など、自分とは異なる存在に対してどれだけ道徳的配慮を向けられるかを表す概念です。
この研究では201名の参加者を対象に、シロシビン、LSD、DMT、メスカリンなどの古典的サイケデリックを使用した体験について調査を実施しました。その結果、体験前と比較して道徳的広がりスコアが平均3.59ポイント上昇し、統計的に有意な変化が確認されました(p < .001)。
つまり、サイケデリック療法を受けた人々は、これまで道徳的配慮の対象外だった存在に対しても、より深い思いやりや配慮を示すようになったのです。
神秘体験と自我の溶解が鍵となる

研究チームは、なぜサイケデリック体験が道徳観の変化をもたらすのかについても詳しく調査しました。その結果、神秘体験(mystical experience)と自我の溶解(ego dissolution)という2つの要素が重要な役割を果たしていることが明らかになりました。
神秘体験とは何か
神秘体験とは、現実や聖なるもの、相互のつながり、そして外界との一体感について深い洞察を得る体験のことです。この体験は宗教的な啓示に似ており、参加者の多くが「すべてが繋がっている」「自分は宇宙の一部である」といった感覚を報告しています。
研究では、神秘体験の強度が高いほど道徳的広がりの増加も大きくなることが確認されました(r = .19, p < .05)。これは、宇宙との一体感や相互のつながりを深く体験することで、他者への共感や配慮が自然に拡大することを示しています。
自我の溶解が生み出す変化
自我の溶解とは、「自分」と「他者」の境界が曖昧になり、個別の自己という感覚が薄れる現象です。この体験により、参加者は自分中心的な思考から解放され、より広い視点で物事を捉えられるようになります。
研究では、自我の溶解の程度と道徳的広がりの増加に正の相関関係が見られました(r = .17, p < .05)。つまり、「自分」という枠組みを超越する体験が、道徳的配慮の範囲を広げる重要な要因となっているのです。
感動と賞賛の感情が長期的変化を支える

さらに興味深いことに、研究ではサイケデリック体験中に感じた特定の感情が、道徳観の変化に関連していることも発見されました。
体験中の感情の影響
サイケデリック体験中に「感動(feeling moved)」と「賞賛(admiration)」を強く感じた参加者ほど、道徳的広がりの増加が大きくなることが明らかになりました。これらの感情は、美しい自然や他者の善行に触れたときに生じる、自己を超越した肯定的な情動です。
長期的な感情変化
注目すべきは、サイケデリック体験後の日常生活においても、賞賛と畏敬の念(awe)を感じやすくなった人ほど道徳的広がりが拡大していたことです。つまり、一時的な体験効果ではなく、感情の傾向そのものが長期的に変化している可能性が示唆されています。
サイケデリック療法の社会的意義

この研究結果は、サイケデリック療法が単なる精神的治療を超えて、社会全体にポジティブな影響をもたらす可能性を示しています。
自然環境への配慮の増加
道徳的広がりが拡大した参加者の多くは、動物や森林、生態系全体への関心と配慮を深めていました。これは環境保護意識の向上につながり、持続可能な社会の実現に貢献する可能性があります。
実際、過去の研究でもサイケデリック使用者は環境保護的な態度を示すことが多く、今回の研究はその心理的メカニズムを科学的に解明したと言えるでしょう。
社会的寛容性の向上
道徳的広がりの増加は、異なる宗教的信念を持つ人々や社会的弱者への理解と受容にもつながります。研究に参加した人々は、価値観や背景の異なる他者に対してより寛容で思いやりのある態度を示すようになりました。
これは分断が深刻化する現代社会において、人々の相互理解と社会的結束を促進する重要な要素となり得ます。
今後の研究課題と可能性

今回の研究は重要な第一歩ですが、さらなる発展の余地も大きく残されています。現在の調査は参加者の回想に基づいているため、今後は前向きな長期研究によって、道徳的変化の持続性や実際の行動への影響をより詳しく調べることが期待されます。
特に注目されるのは、サイケデリック療法の応用範囲の広がりです。現在進められているうつ病やPTSD治療の臨床試験に加えて、社会復帰支援や教育分野での活用可能性も検討されています。もちろん、適切な医学的監督下での安全な使用が前提となりますが、人々の共感力や思いやりを育む新しいアプローチとして期待が高まっています。
法的環境についても、科学的エビデンスの蓄積とともに徐々に整備が進んでいます。多くの研究機関や医療機関が、責任ある研究の推進に向けて協力体制を築いており、将来的にはより多くの人々がこの治療法の恩恵を受けられるようになるかもしれません。
まとめ:道徳観を変える新たな可能性
ウーロンゴング大学の研究は、サイケデリック療法が人々の道徳観や価値観に顕著な変化をもたらす可能性を科学的に示した画期的な発見です。神秘体験と自我の溶解を通じて、私たちはより広い範囲の存在に対して思いやりと配慮を向けられるようになることが明らかになりました。
この発見は、精神的治療を超えて社会全体の調和と持続可能性に貢献する新たな可能性を示しています。環境保護意識の向上、社会的寛容性の拡大、そして人類全体の福祉向上につながる重要な知見として、今後の研究発展が期待されます。
ただし、これらの効果を安全かつ効果的に活用するためには、さらなる研究と慎重な検討が不可欠です。私たちは科学的エビデンスに基づき安全な形でこの新しい治療法の可能性を探求していく必要があるでしょう。
Olteanu, W., & Moreton, S. G. (2025). Meaningful Psychedelic Experiences Predict Increased Moral Expansiveness. Journal of Psychoactive Drugs, 1–9. https://doi.org/10.1080/02791072.2025.2478095
本記事は情報提供のみを目的としており、医療アドバイスではありません。
精神的・身体的な問題を抱えている方は、必ず医療専門家にご相談ください。
また、日本国内でのサイケデリック物質の所持・使用は法律で禁止されています。