世界で10億人以上の女性が経験する更年期——この人生の大きな転換期に、サイケデリック療法が新たな希望として注目を集めています。本記事では、シロシビンやケタミンが更年期症状にどのように作用するのか、ホルモンとの相互作用から実践的なアプローチまで、最新の知見をわかりやすく解説します。
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シロシビンは更年期の女性に新たな治療選択肢をもたらす

サイケデリック療法は更年期に伴う心身の不調に対して、従来のホルモン補充療法(HRT)を補完する可能性のある新しいアプローチとして期待されています。
更年期は単なる「閉経前後の時期」ではありません。エストロゲン受容体は体内のほぼすべての細胞に存在しており、そのホルモンレベルの変動は睡眠、気分、代謝、性欲、認知機能、痛みの感受性、体温調節など、あらゆる身体システムに影響を及ぼします。この広範な変化が、更年期を単なる生理的現象ではなく、人生における重大な転換点たらしめているのです。
近年の研究では、シロシビンが脳内のセロトニン受容体(5-HT2A受容体)に作用することで、うつ症状の改善や炎症の軽減に寄与する可能性が示唆されています。特に注目すべきは、エストロゲンとセロトニン受容体の密接な関係です。エストロゲンレベルが低下すると、セロトニン受容体の数と感受性も減少することが明らかになっており、これがシロシビンの作用にも影響を与える可能性があるのです。
更年期とは何か:ホルモン変動が引き起こす心身の変化

更年期を理解するためには、まずその生理学的な背景を把握することが重要です。更年期は「閉経移行期(ペリメノポーズ)」と「閉経後(ポストメノポーズ)」の二段階に分けられます。
ペリメノポーズ(閉経移行期)の特徴
ペリメノポーズは、閉経に向かう移行期間を指し、早い人では30代半ばから始まることもあります。この時期の特徴は、ホルモンレベルの激しい上下動です。エストロゲンが急上昇したかと思えば急降下するという「ジェットコースター」のような変動が、心身にさまざまな症状をもたらします。
代表的な症状としては、睡眠障害、気分の変動、ブレインフォグ(思考の霧がかかったような状態)、ホットフラッシュ(突然の発汗や熱感)、関節痛などが挙げられます。特に睡眠障害は、子育て中のストレスや仕事のプレッシャーと重なりやすく、本人も周囲も更年期が原因だと気づきにくいことがあります。
閉経後の身体変化
閉経後は、ホルモンレベルが低い状態で安定します。興味深いことに、ペリメノポーズの激しい変動を経験した後では、この「安定した低さ」をむしろ楽に感じる女性も少なくありません。しかし、エストロゲンの持続的な低下は、長期的な健康リスクにも関連しています。
注目すべきは、この時期の心理的変化です。エストロゲンには「従順さ」や「協調性」を促進する作用があるとされており、そのレベルが低下することで、多くの女性が「もう我慢しなくていい」という感覚を経験します。これは決してネガティブな変化ではなく、自分らしさを取り戻す機会とも捉えられています。
エストロゲンとセロトニン:シロシビンの作用メカニズム

サイケデリック療法が更年期女性にどのように作用するかを理解するには、エストロゲンとセロトニンの関係を知ることが不可欠です。
エストロゲン低下がもたらすセロトニン受容体の変化
エストロゲンレベルが低下すると、脳内のセロトニン受容体(5-HT2A受容体)の数も減少することが研究で明らかになっています。5-HT2A受容体は、シロシビンやLSDなどのサイケデリクスが主に作用する部位です。つまり、エストロゲンが少なくなると、セロトニンへの感受性が低下し、それに伴ってシロシビンの効果も弱まる可能性があるということです。
これは、更年期の女性がサイケデリック療法を受ける際に、同じ用量でも効果が異なる可能性があることを示唆しています。ただし、現時点ではこれを直接比較した臨床研究は行われておらず、さらなる調査が求められる分野です。
ホルモン補充療法との相乗効果の可能性
理論的には、ホルモン補充療法(HRT)によってエストロゲンレベルを補うことで、セロトニン受容体が回復し、シロシビンの効果がより発揮されやすくなると考えられています。また、ある研究では、エストロゲンが受容体の感受性自体を高める可能性も示唆されており、HRTとサイケデリック療法の組み合わせが相乗効果を生む可能性があります。
同様のメカニズムは、ケタミンにも当てはまります。エストロゲンはグルタミン酸シグナル伝達やBDNF(脳由来神経栄養因子)の産生を促進しますが、これらはまさにケタミンが活性化する経路と同じです。したがって、HRTを受けている女性では、ケタミン療法の効果も高まる可能性があるのです。
サイケデリック療法が更年期に効果を発揮する3つの領域

臨床現場での経験から、サイケデリック療法が更年期女性に特に効果を発揮する領域が3つあることが分かってきました。
炎症の軽減
更年期には、線維筋痛症や関節痛など、炎症に関連した症状を訴える女性が増加します。シロシビンには抗炎症作用があることが、プラセボ対照試験で確認されています。具体的には、TNF-α、IL-6、C反応性タンパク質などの炎症マーカーが、シロシビン投与後に有意に減少したという報告があります。
ただし、高用量のセッション中には、一時的に身体的な不快感(背中の痛みや頭痛など)が増強されることもあります。これは即効性の鎮痛効果というよりも、長期的な免疫系への作用として理解されるべきでしょう。
気分とメンタルヘルスの改善
更年期うつや不安症状に対するサイケデリック療法の効果は、最も研究が進んでいる分野の一つです。シロシビンやケタミンは、脳内の「デフォルトモードネットワーク(DMN)」——私たちの固定観念や自己批判的な思考パターンを司る領域——の活動を一時的に低下させることで、心の柔軟性を取り戻すきっかけを与えてくれます。
興味深いことに、出産後のエストロゲン急降下時に発症する産後うつに対しても、ケタミンは効果を示しています。これは、エストロゲンレベルが低い状態でもケタミンが有効に作用しうることを示唆しています。
自己再発見と人生の意味づけ
サイケデリック療法が最も「輝く」のは、この領域かもしれません。更年期は単なる身体的な変化ではなく、「自分は誰なのか」「これからどう生きたいのか」という実存的な問いと向き合う時期でもあります。
シロシビンセッションでは、脳内の異なる領域間のつながりが増加し、普段は抑制されている自己認識にアクセスできることがあります。ある実践者は、セッション中に「3時間、本当の自分と過ごすことができた」という体験を報告しています。このような体験が、更年期という人生の転換点において、新たな自己像を構築する助けとなるのです。
更年期女性がサイケデリック療法を受ける際の注意点

サイケデリック療法を検討する更年期女性には、いくつかの重要な考慮事項があります。
身体的健康状態の確認
年齢とともに心臓疾患のリスクが上昇するため、サイケデリック療法を受ける前には心血管系の健康状態を確認することが推奨されます。また、甲状腺機能、鉄分レベル、ビタミンD、B12なども、更年期症状に影響を与える要因として評価されるべきです。
サポート体制の重要性
サイケデリック体験の後には、一時的な感情の揺れが生じることがあります。更年期という元々感情が不安定になりやすい時期においては、十分なサポート体制を整えてから療法に臨むことが特に重要です。信頼できる人間関係、専門家へのアクセス、そして自分自身への理解と忍耐が必要とされます。
コミュニティの力
更年期は長い間、「恥ずかしいこと」として語られることが少なかった話題です。しかし、同じ経験を共有する女性たちとつながることで、孤立感が軽減され、療法の効果も高まることが報告されています。グループセッションやグループ統合(インテグレーション)は、個人セッションでは得られない力強いサポートを提供してくれます。
統合(インテグレーション):体験を日常に活かすために

サイケデリック体験後には、脳の可塑性が一時的に高まる「窓」が開かれます。この期間を有効活用するための統合プラクティスは、療法の成否を大きく左右します。
更年期女性に特に効果的とされる統合方法には様々なものがあります。まず、創造的な表現活動が挙げられます。陶芸、コラージュ、ジャーナリング、絵を描くことなど、形式にとらわれない創作活動は、言葉にできない体験を処理する助けとなります。美術は「アーティストだけのもの」ではないのです。
次に、身体を通じた統合として、サウナ、瞑想、自然の中で過ごすことなど、神経系を落ち着かせるプラクティスが有効です。更年期はホルモンの乱高下によって神経系が過敏になりやすい時期であり、意識的にリラックスの時間を設けることが重要となります。
さらに、音楽も強力なツールとなります。歌う、楽器を演奏する、あるいは単に音楽を聴くことも、体験を統合する有効な方法です。そして何より、「遊び」を取り戻すことが大切です。大人になるにつれて失われがちな遊び心を取り戻し、新しいことに挑戦する姿勢は、更年期を「喪失の時期」ではなく「再発見の時期」として経験する鍵となります。
研究の現状と今後の課題

サイケデリック療法と更年期に関する研究は、まだ黎明期にあります。現在の知見の多くは、エストロゲンとセロトニン受容体の関係から間接的に推論されたものであり、更年期女性を対象とした直接的な臨床試験はほとんど行われていません。
今後必要とされる研究として、更年期前後の女性における用量反応の比較、ホルモン補充療法との併用効果の検証、月経周期やホルモンレベルとサイケデリック体験の関連性の解明などが挙げられます。女性の健康研究は歴史的に軽視されてきた分野ですが、サイケデリック研究においてもこの傾向は残念ながら継続しています。しかし、状況は変わりつつあり、より多くの研究者がこの重要なテーマに取り組み始めています。
まとめ:更年期とサイケデリック療法は相互に補完し合う可能性がある
更年期は、世界中で10億人以上の女性が経験する普遍的な人生の転換点です。そして、この時期に経験する身体的・心理的・実存的な変化は、サイケデリック療法がもたらす可能性——炎症の軽減、気分の改善、自己再発見——と深く共鳴するものがあります。
エストロゲンとセロトニン受容体の関係は、ホルモン補充療法とサイケデリック療法の組み合わせが相乗効果を生む可能性を示唆しています。また、更年期という「自分を見つめ直す時期」と、サイケデリクスがもたらす「自己の深層へのアクセス」は、互いを補完し合う関係にあると言えるでしょう。
研究はまだ初期段階にありますが、多くの実践者たちが臨床現場でその可能性を目撃しています。更年期を「終わり」としてではなく「新たな始まり」として捉える視点——それは、サイケデリック療法がこれまで多くの人々に提供してきた贈り物でもあるのです。
私たちは一人でこの旅を歩む必要はありません。コミュニティの力、適切なサポート、そして自己への慈しみを持って、更年期という人生の章を豊かに生きることができるのです。
Morski, L. M. (Host). (2025). Psychedelics for the menopausal transition with Dr. Alli Bigalow [Audio podcast episode]. In Psychedelic Medicine Podcast. https://psychedelicmedicine.org/podcast
本記事は情報提供のみを目的としており、医療アドバイスではありません。
精神的・身体的な問題を抱えている方は、必ず医療専門家にご相談ください。
また、日本国内でのサイケデリック物質の所持・使用は法律で禁止されています。


