シロシビン療法の安全性を実証|OPENプロジェクトの最新研究成果

法律・規制

オレゴン州で世界初となる合法的なシロシビン・サービスが始まり、その実態を明らかにする大規模研究が進行中です。本記事では、オレゴン健康科学大学が主導する「OPEN」プロジェクトの概要と、91%という驚異的な追跡率で収集された安全性・有効性データについて紹介します。

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シロシビン療法は臨床試験と同様に安全かつ効果的である

結論から述べると、OPENプロジェクトの初期データは、地域密着型のシロシビン・サービスが臨床試験と同等の安全性と有効性を持つことを示唆しています。244名のクライアントを対象とした追跡調査では、重篤な有害事象はわずか3件にとどまり、うつ症状、不安症状、PTSD症状のいずれにおいても、ベースラインと比較して3ヶ月後に統計的に有意な改善が認められました。

OPENプロジェクトとは何か

OPEN(Open Psychedelic Evaluation Nexus)は、オレゴン健康科学大学(OHSU)内に設置された非営利の研究協力体です。このプロジェクトは「実践ベースの研究ネットワーク」として機能し、臨床試験ではなく実際の地域社会でのシロシビン・サービスの成果を追跡しています。

従来の臨床試験は厳密な条件下で行われるため、実際のサービス環境とは異なる場合があります。OPENプロジェクトは、この「臨床試験と現実世界のギャップ」を埋めることを目的としています。具体的には、安全性(クライアントに害がないか)、有効性(サービスが効果的か)、公平性(サービスが公正に提供されているか)という3つの観点から、地域支援型シロシビン・サービスを包括的に評価しています。

なぜこの研究が重要なのか

サイケデリック療法の分野では、臨床試験の結果と実際のサービス環境での結果が一致するかどうかは、長らく未解決の問いでした。オレゴン州は2020年に住民投票によってシロシビン・サービスを合法化し、2023年から実際にサービスが開始されました。コロラド州も同様の動きを見せています。

しかし、臨床試験の厳密な管理環境を離れた「現実世界」でシロシビンが同様に安全で効果的かどうかは、証明されていませんでした。規制当局、保険会社、連邦政策立案者、そして一般市民の誰もが、この問いへの答えを待っています。OPENプロジェクトは、まさにこの答えを科学的に提供するための取り組みなのです。

研究の仕組みと参加者保護の徹底

OPENプロジェクトの特徴は、ファシリテーター(シロシビン・サービスの提供者)とクライアントの両方を研究参加者として巻き込む仕組みにあります。

データ収集の流れ

研究への参加は完全に任意であり、ファシリテーターがクライアントに参加の機会を提供します。クライアントはシロシビン・セッションの前にベースライン調査を完了し、その後1週間、1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月、9ヶ月、12ヶ月の時点でフォローアップ調査に回答します。

ファシリテーターもセッション後に短い調査に回答し、両者とも調査完了ごとにギフトカードが支給されます。すべての調査を完了した場合、クライアントは最大350ドルの報酬を受け取ることができます。この互恵的な仕組みが、91%という高い追跡率を実現している要因の一つと考えられています。

連邦機密保護証明書による最高水準のプライバシー保護

研究データの保護において、OPENプロジェクトは特筆すべき措置を講じています。NIH(米国国立衛生研究所)が発行する「連邦機密保護証明書」を取得しており、これにより研究データはいかなる法的機関からの召喚にも応じる必要がありません。

これは医療データや州レベルのデータとは根本的に異なる、最高水準のデータ保護です。現役軍人、連邦職員、処方権を持つ医療従事者など、スケジュールI物質(シロシビンは連邦法上この分類)への関与に敏感な立場にある人々にとって、この保護は参加への大きな安心材料となっています。

初期データが示す安全性と有効性

現在までに77名のファシリテーターがネットワークに参加し、244名のクライアントが研究に登録されています。このうち7名のファシリテーターはコロラド州を拠点としています。

安全性に関する知見

安全性の評価は、オレゴン健康局(OHA)が定義する有害事象(救急搬送、医療処置の必要性、重大な行動反応、途中退出など)の客観的測定と、クライアント自身による主観的評価の両面から行われています。

3ヶ月時点での調査では、大多数のクライアントが害や困難な経験を報告していません。10%未満の人が1日以上続く体調不良や頭痛を報告しましたが、これらは一時的なものでした。一部のクライアントがHPPD(幻覚剤持続性知覚障害)の症状を報告しましたが、6ヶ月時点ではすべて解消していることが確認されています。

重篤な有害事象は244名中わずか3件であり、これはオレゴン健康局のデータと一致する割合です。注目すべきは、これら3件すべてがサイケデリック未経験者に発生していたという点です。この発見は、ファシリテーターからのフィードバックに基づいて研究チームが調査項目に追加した結果明らかになったものであり、実践ベースの研究ネットワークとしての強みを示しています。

精神的健康への効果

精神的健康の改善に関するデータは非常に有望です。ベースライン時点で約半数のクライアントが中等度から重度のうつ症状、不安症状、またはPTSD症状を抱えていました。3ヶ月後の追跡調査では、これらの症状を持つ人の割合が顕著に減少しています。

特に注目すべきは、不安症状とPTSD症状に関するデータです。シロシビンのうつ病に対する効果は多くの臨床試験で示されていますが、不安症状やPTSDを対象とした臨床試験はまだ少ない状況です。OPENプロジェクトのデータは、シロシビンがこれらの症状に対しても効果的である可能性を示唆しており、今後の研究の方向性を示す重要な発見といえます。

有害事象の「ニュアンス」を捉える

OPENプロジェクトが特に重視しているのは、数値だけでは捉えられない有害事象の「ニュアンス」です。例えば、オレゴン健康局の基準では「重篤な有害事象」と分類されるケース(救急搬送が必要だった場合など)であっても、クライアント自身は「恥ずかしい経験だったが、最終的には非常に有益だった」と振り返ることがあります。

このような「技術的には有害事象だが、本人にとっては成長につながる経験」という複雑な現実を、OPENプロジェクトは丁寧に記録しています。単なる数字の羅列ではなく、完全なストーリーを伝えることが、この研究の重要な役割の一つなのです。

研究の倫理的基盤と透明性

OPENプロジェクトは、サイケデリック・データを「共有された天然資源」として捉えています。データを商業化するのではなく、すべての知見を永続的に無料で共有することを目指しています。

データの共有と保護のバランス

研究環境でのデータ共有は非常に厳格なプロセスを経る必要があります。クライアントレベルのデータ(個人を特定できる情報)は、訓練を受けた臨床研究者にのみ、データ使用契約と機関審査委員会(IRB)の承認を得た上で共有されます。集計データでさえ、同様の手続きが必要です。

一方で、研究結果の共有は積極的に行われます。学会発表、査読付き論文への掲載、規制当局やサービスセンターへのレポート、ポッドキャスト出演、ソーシャルメディアでの発信などを通じて、さまざまなステークホルダーがこの情報にアクセスできるようになります。

ファシリテーターと業界への還元

OPENプロジェクトは、研究成果をファシリテーターやサービスセンターに直接還元することも目指しています。将来的には、個々のファシリテーターやサービスセンターレベルのデータを共有し、「自分のサービスがどのような成果を上げているか」を把握できるようにする計画があります。

これは単なる法定データ収集義務とは異なり、事業改善のための実用的なフィードバックを提供するものです。例えば、ファシリテーターのダッシュボードが近日中に更新され、クライアントの研究参加状況をリアルタイムで確認できるようになる予定です。

測定項目の包括性

OPENプロジェクトが測定している領域は多岐にわたります。研究チームは2年以上をかけて文献を精査し、シロシビン・サービスの影響を測定するための最適な方法を検討しました。オレゴン州立大学、デンバーヘルス、ミシガン大学などの研究者、規制当局、ファシリテーターや害軽減の専門家で構成されるコミュニティ諮問委員会との協議を重ねています。

病理の軽減だけでなくウェルビーイングの向上も

西洋医学の枠組みでは、不安症状やうつ症状の軽減という「病理の減少」に焦点が当てられがちです。しかし、OPENプロジェクトはそれだけでなく、ウェルビーイング、つながり、帰属感、人生満足度、スピリチュアリティの向上といった「ポジティブな変化」も測定しています。

スピリチュアリティの測定については、エモリー大学のサイケデリック&スピリチュアリティセンターと緊密に連携しているとのこと。同センターは数十年にわたり瞑想とスピリチュアリティの研究を行っており、その知見を活かして最も重要な質問項目を特定しています。

既存の尺度がない領域への対応

サイケデリック研究は新しい分野であるため、既存の調査尺度が存在しない領域もあります。そのような場合、研究チームは平均15年以上のアンダーグラウンドでのサービス提供経験を持つ実践者に相談し、「何を測定すべきか」についてデルファイ法による合意形成を行いました。この研究成果は、チームが発表した最初の論文となっています。

今後の展望

シロシビン以外の物質への拡大

研究プラットフォームは特定の物質に限定されておらず、地理的制約や許認可状況にも依存しない設計となっています。イボガイン、LSD、MDMAなど、他のサイケデリクスにも対応可能です。コロラド州のプログラムではシロシビンが「氷山の一角」であり、今後より多くの天然薬物が同様の厳格な研究を必要とすることが予想されます。

ただし、ケタミンについては注意が必要です。ケタミンは通常、一連の治療として複数回投与されるため、「1回の深い体験」を前提とした現在の調査設計には適していません。調査項目の多くが「過去2週間で…」という形式であるため、治療シリーズの途中でこの質問に答えることは困難です。

保険適用への道

ファシリテーターの中には、将来的な保険適用を見据えてこの研究に参加している人も多くいます。保険会社がシロシビン・サービスを補償対象とするためには、安全性と有効性に関するエビデンスが不可欠です。OPENプロジェクトは、そのエビデンス基盤の構築に直接貢献しています。

研究参加が統合プロセスの一部に

興味深いことに、複数のクライアントが研究への参加自体を「統合」(integration)のプロセスの一部として捉えていることが報告されています。定期的な調査への回答が、自分の体験を振り返り、成長を確認する機会となっているのです。研究チームは今後、この現象についても質的インタビューを通じて詳しく調査する予定とのことです。

まとめ:実践ベースの研究がサイケデリック療法の未来を形作る

OPENプロジェクトは、サイケデリック研究の新しいパラダイムを示しています。臨床試験という「理想的な環境」だけでなく、実際のサービス環境での成果を追跡することで、より実用的で包括的なエビデンスを構築しています。

初期データは非常に有望であり、地域支援型のシロシビン・サービスが安全かつ効果的であることを示唆しています。91%という高い追跡率、連邦機密保護証明書による最高水準のプライバシー保護、そして病理の軽減だけでなくウェルビーイングの向上も測定する包括的なアプローチは、この研究の質と信頼性を担保しています。

オレゴン州とコロラド州は、世界が注目する「実験場」となっています。OPENプロジェクトのデータは、規制当局、保険会社、連邦政策立案者、そして一般市民がサイケデリック療法について情報に基づいた意思決定を行うための基盤となるでしょう。ファシリテーターとクライアントが協力して構築するこのエビデンス基盤は、スティグマの軽減、公衆衛生の向上、そして最終的には保険適用への道を開く可能性を秘めています。

Admin. (2025, May 22). Home – Open Psychedelic Evaluation Nexus. Open Psychedelic Evaluation Nexus. https://openpsychedelicscience.org/

本記事は情報提供のみを目的としており、医療アドバイスではありません。
精神的・身体的な問題を抱えている方は、必ず医療専門家にご相談ください。
また、日本国内でのサイケデリック物質の所持・使用は法律で禁止されています。

この記事を書いた人
ユウスケ

米国リベラルアーツカレッジを2020年心理学専攻で卒業。大手戦略コンサルティングファームにて製薬メーカーの営業・マーケティング戦略立案に従事するなかで、従来の保険医療の限界を実感。この経験を通じて、より根本的な心身のケアアプローチの必要性を確信し、サイケデリック医療を学ぶ。InnerTrekにてオレゴン州認定サイケデリック・ファシリテーター養成プログラム修了(Cohort 4)。

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