【速報】シロシビン療法が第3相試験で成功|うつ病治療の新時代へ

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サイケデリック療法の歴史が大きく動きました。コンパスパスウェイズ社のCOMP360が、治療抵抗性うつ病を対象とした第3相臨床試験で2本連続の成功を達成しました。本記事では、この画期的な臨床データの詳細と、シロシビンによるサイケデリック療法が精神医療の未来をどう変えるかについて紹介します。

COMP360が第3相試験2本連続で統計的に有意な結果を達成

今回の発表はサイケデリック療法の実用化に向けた最大級のマイルストーンです。サイケデリック製剤の社会実装を目指すコンパス・パスウェイズ社は、合成シロシビン製剤COMP360の第3相臨床試験「COMP006」において、主要評価項目を達成したと発表しました。これは、すでに結果が出ていた「COMP005」に続く2本目の第3相試験の成功であり、シロシビンが「クラシック・サイケデリック」として初めて、複数の大規模臨床試験で一貫して高い統計的有意性と臨床的に意味のある効果を示したことを意味します。

COMP360は現在、米国食品医薬品局(FDA)から「画期的治療薬」(ブレークスルーセラピー)の指定を受けており、コンパス・パスウェイズは2026年第4四半期中の新薬承認申請(NDA)提出を目標に、FDAとの協議を進めています。

「治療抵抗性うつ病」とは何か

治療抵抗性うつ病(TRD)とは、2種類以上の適切な抗うつ薬治療を受けても十分な改善が得られないうつ病のことです。一般的なうつ病治療が「効かない」状態が続くため、患者にとって非常に深刻な問題となります。米国だけでも推定約400万人がこの状態にあるとされ、通常のうつ病と比べて生活の質の低下が著しく、自殺リスクも高まることが知られています。

世界保健機関(WHO)は大うつ病性障害を2030年までに世界の疾病負担の第1位になると予測しており、その中でもTRDは最も治療が困難な領域の一つです。つまり、いま最も新しい治療法が求められている分野で、シロシビンによるサイケデリック療法が大きな成果を出したということになります。

COMP005とCOMP006:2つの大規模試験が示した一貫した有効性

今回注目すべきは、COMP360の有効性が1つの試験だけでなく、設計の異なる2つの大規模第3相試験で一貫して確認された点です。臨床試験の世界では、1つの試験で良い結果が出ても「再現性」がなければ信頼性は担保されません。COMP360はこのハードルを見事にクリアしました。

COMP005試験の概要

COMP005は、米国内258名の参加者を対象に行われたランダム化二重盲検プラセボ対照試験です。「二重盲検」とは、患者も医師もどちらが本物の薬を投与されているか分からない状態で行う試験のことで、薬の効果を最も客観的に測定できる方法として知られています。

この試験では、COMP360の25mg単回投与とプラセボ(偽薬)を比較しました。主要評価項目であるMADRS(モンゴメリー・アスバーグうつ病評価尺度)のスコア変化において、25mg群はプラセボ群に対して平均-3.6ポイントの差を示し、p値は0.001未満という高い統計的有意性を達成。p値が0.001未満ということは、この結果が偶然によるものである確率が1000回に1回未満であることを意味し、科学的に非常に強い根拠と言えます。

さらに注目すべきデータとして、25mg群の25%が6週目の時点で臨床的に意味のあるMADRSスコアの改善(25%以上の減少)を達成し、その効果はわずか1〜2回の投与で26週間(約半年)にわたって持続しました。

COMP006試験の概要

COMP006は、北米とヨーロッパにまたがる581名が参加した、より大規模な試験です。この試験では、COMP360の25mgを3週間隔で2回投与する方法と、1mg(実質的な対照群)を比較しました。

結果は、25mg群が1mg群に対してMADRSスコアで平均-3.8ポイントの差を示し、やはりp値0.001未満を達成。さらに、25mg群の参加者の39%が6週目の時点で臨床的に意味のある改善を示しました。これはCOMP005の25%を大きく上回る数値であり、2回投与による効果の増強が示唆されています。

即効性と持続性:従来の抗うつ薬との決定的な違い

シロシビンによるサイケデリック療法が既存の治療法と大きく異なる点は、その「即効性」と「持続性」の組み合わせにあります。

従来の抗うつ薬(SSRIやSNRIなど)は、効果が現れるまでに通常4〜8週間かかり、毎日の服用が必要です。一方、COMP360は投与翌日から統計的に有意な症状改善が確認されており、その効果は6週間のすべての測定時点で維持されました。

さらに驚くべきは、COMP005のデータから示された持続性です。臨床的に意味のある改善を達成した参加者は、たった1〜2回の投与だけで、その効果が少なくとも26週間(約半年)持続しました。毎日薬を飲み続ける必要がある従来の治療法とは根本的に異なるアプローチと言えるでしょう。

コンパス・パスウェイズの最高医学責任者であるガイ・グッドウィン博士は、「これらの結果は、TRD患者にとっての即効性と持続性を再定義するものです」とコメントしています。

ただし、サイケデリック療法は「飲んで良くなる」ような魔法の薬ではありません。サイケデリックの投与はあくまできっかけであり、準備セッションや投与セッション、体験での気づきを統合する統合セッションを組み合わせて初めて効果が発揮されるという点には注意が必要です。

安全性プロファイル:副作用は軽度で一過性

新しい治療法において、有効性と同じくらい重要なのが安全性です。COMP360の安全性プロファイルは、2つの第3相試験を通じて概ね良好であることが確認されました。

両試験において、副作用(治療下で発現した有害事象=TEAE)の大部分は投与当日に発生し、その大半が24時間以内に消失しています。具体的には、COMP005の25mg群ではTEAEの66%が投与日に発生し、88%が1日以内に回復しました。COMP006でも同様に、TEAEの73%が投与日に発生し、83%が1日以内に回復しています。

最も多く報告された副作用は、頭痛、吐き気、視覚的幻覚、不安感でした。視覚的幻覚はシロシビンの薬理作用として知られるものであり、管理された臨床環境下で適切なサポートのもとに発現するものです。

独立データ安全性監視委員会(DSMB)の委員長は、「COMP360の既知のプロファイルおよびTRD患者集団と一致する安全性所見であり、新規の、予期しない、または懸念される安全性所見はない」との声明を発表しました。特に重要な点として、重篤な自殺念慮の発生率は両試験を通じて1%未満でした。

FDAへの承認申請に向けた今後の展望

コンパス・パスウェイズは、今回の結果を受けて、FDAとのローリング申請(段階的なNDA提出)に関する会議を要請しました。ローリング申請とは、すべてのデータが揃うのを待たずに、準備ができた部分から順次FDAに提出していく方式で、審査プロセスの迅速化が期待できます。

同社のカビール・ナスCEOは、「1,000名以上の参加者を含む3つの堅牢な臨床試験を通じて、一貫した高い統計的有意性と臨床的に意味のある効果を実証しました」と述べ、2026年第4四半期中のNDA提出と承認の獲得を目標に掲げています。

COMP006の26週間データ(パートB)は2026年第3四半期初頭に公表予定であり、長期的な有効性と安全性のさらなるエビデンスが期待されます。もしFDAの承認が得られれば、COMP360は「クラシック・サイケデリック」を用いた初の処方薬となり、サイケデリック療法の歴史に新たな1ページが刻まれることになります。

サイケデリック療法が精神医療に与えるインパクト

今回のCOMP360の試験成功は、単に一つの新薬の開発が進んだというだけにとどまりません。これは、サイケデリック療法そのものが「エビデンスに基づく精神医療」として認められつつある証と言えます。

シロシビンは、脳内のセロトニン5-HT2A受容体に作用し、神経可塑性(脳の配線を変える力)を高めることで、固定化されたネガティブな思考パターンをリセットする作用があると考えられています。これは、単に脳内の化学バランスを調整する従来の抗うつ薬とは異なるメカニズムであり、「心のOSを再起動する」ようなものとも言えるかもしれません。

ジョンズ・ホプキンス大学やインペリアル・カレッジ・ロンドンなどの研究機関が先行して蓄積してきたシロシビン研究のエビデンスが、COMP360の大規模臨床試験によってさらに強化された形です。サイケデリック療法は、もはや「カウンターカルチャーの遺産」ではなく、最先端の精神医学として位置づけられる段階に来ていると言えるでしょう。

まとめ:今回の結果はサイケデリック療法の実用化を加速させる

COMP360は、治療抵抗性うつ病を対象とした2つの第3相臨床試験(COMP005・COMP006)の両方で主要評価項目を達成し、高い統計的有意性(p<0.001)と臨床的に意味のある効果を一貫して示しました。

投与翌日からの即効性と、わずか1〜2回の投与で少なくとも26週間持続する効果は、従来の抗うつ薬治療とは根本的に異なるプロファイルを持っています。

安全性は概ね良好で、副作用の大半は軽度かつ一過性であり、独立委員会からも新たな懸念は報告されていません。コンパス・パスウェイズは2026年第4四半期のFDAへの新薬承認申請を目指しており、承認されれば古典的サイケデリクスとして初の処方薬となります。

治療抵抗性うつ病という最も治療が困難な領域で、シロシビンによるサイケデリック療法がこれほど明確な成果を示したことは、精神医療全体にとって画期的な出来事です。今後のFDA審査の行方と、COMP006の長期データに引き続き注目して行きたいと思います。

Compass Pathways successfully achieves primary endpoint in second Phase 3 trial evaluating COMP360 Psilocybin for Treatment-Resistant Depression. (n.d.). https://ir.compasspathways.com/News–Events-/news/news-details/2026/Compass-Pathways-Successfully-Achieves-Primary-Endpoint-in-Second-Phase-3-Trial-Evaluating-COMP360-Psilocybin-for-Treatment-Resistant-Depression/default.aspx

本記事は情報提供のみを目的としており、医療アドバイスではありません。
精神的・身体的な問題を抱えている方は、必ず医療専門家にご相談ください。
また、日本国内でのサイケデリック物質の所持・使用は法律で禁止されています。

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この記事を書いた人
ユウスケ

米国リベラルアーツカレッジを2020年心理学専攻で卒業。大手戦略コンサルティングファームにて製薬メーカーの営業・マーケティング戦略立案に従事するなかで、従来の保険医療の限界を実感。この経験を通じて、より根本的な心身のケアアプローチの必要性を確信し、サイケデリック医療を学ぶ。InnerTrekにてオレゴン州認定サイケデリック・ファシリテーター養成プログラム修了(Cohort 4)。

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