サイケデリック使用の動機と正当化|フィンランド研究が示す8つの世界

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サイケデリック療法への関心が世界中で高まるなか、「なぜ人はサイケデリックを使うのか」という問いに社会学の視点から迫ったフィンランドの研究が注目を集めています。本記事では、ヘルシンキ大学による40名へのインタビュー研究をもとに、使用者が語る8つの正当化の論理と、臨床研究では見過ごされがちな「快楽」の側面について紹介します。

サイケデリック使用の正当化は「科学」から「快楽」まで多層的である

サイケデリックの使用動機は、治療目的だけに限られません。フィンランドのヘルシンキ大学で行われた最新の質的研究(Tsupari & Hupli, 2025)は、40名のサイケデリック使用者を対象としたインタビュー調査を通じ、使用を正当化するロジックが驚くほど多様であることを明らかにしました。

この研究が用いたのは、フランスの社会学者ボルタンスキーとテヴノーが提唱した「正当化理論(Justification Theory)」という分析枠組みです。これは、人が社会的な論争の中でどのような価値基準に基づいて自分の行動を正当化するかを分類する理論で、もともとは7つの「世界」に分けられていました。たとえば、科学的根拠に訴える「産業の世界」、伝統や人間関係を重視する「家庭の世界」、公共善を訴える「市民の世界」などがあります。

本研究のもっとも重要な発見のひとつは、既存の7つの世界では捉えきれなかった「自己の世界(World of Self)」という新たなカテゴリーを見出したことです。自己の世界には、快楽、好奇心、自己成長、知的刺激といった、きわめて個人的な動機が含まれます。つまり、サイケデリックの使用者は治療や科学的エビデンスだけでなく、「単純に楽しいから」「自分を成長させたいから」という個人的理由をも、使用の正当化に織り込んでいるのです。

このことは、サイケデリック研究が臨床効果ばかりに注目し、快楽という人間の根源的な体験を軽視しがちであるという、研究領域全体への重要な問題提起にもなっています。

フィンランド発の質的研究が明らかにした使用者のリアル

研究の背景と方法

この研究は、ヘルシンキ大学社会学部のミカ・ツパリ(Mika Tsupari)氏の博士課程プロジェクトの一環として実施されました。2022年3月から7月にかけて、フィンランド在住のサイケデリック使用者40名に対して個別のテーマ別インタビューが行われています。

参加者の募集は、フィンランド・サイケデリック教育・文化協会という第三セクター組織を通じて行われました。参加者の特徴としては、31名が男性、8名が女性、1名が性別を明かさないことを選択しています。年齢層は25歳から69歳にわたり、75%が大学もしくは応用科学大学の学位を有していました。37名が現在もサイケデリックを使用中であり、年に1〜6回のペースで使用しているとのことです。

注目すべきは、参加者たちが特定のサブカルチャーに属しているわけではないという点でしょう。選挙に行き、ごく普通の社会生活を送りながらも、サイケデリックの「セットとセッティング」(使用時の心理状態と環境)について深い知識を持つ、いわば「知識豊富な一般市民」だったのです。

フィンランドの法的・文化的背景

フィンランドでは、サイケデリックは違法薬物に分類されています。これは北欧諸国(スウェーデン、ノルウェー、デンマーク、アイスランド)でも同様です。しかしながら、その治療的可能性への関心は高まっており、フィンランドとデンマークではアルコール依存症に対するサイケデリック療法の研究が進行中で、スウェーデンでは緩和ケア領域での研究が行われています。

興味深いのは、欧州薬物報告(EUDA, 2025)によれば、フィンランドはLSDの生涯使用率が3.8%と、データが入手可能な北欧諸国のなかでもっとも高い数値を記録している点です。デンマークは2.8%、ノルウェーは2.3%であり、フィンランドにおけるサイケデリック使用の広がりがうかがえます。

使用者が語る8つの正当化の世界

正当化理論において、人はそれぞれの「世界」に基づく価値基準を用いて、自らの行動を説明し、擁護します。本研究では、ボルタンスキーとテヴノーの原典にある7つの世界のうち6つが確認され、さらに新たに「自己の世界」が加えられました。唯一確認されなかったのは「市場の世界」です。以下、それぞれの正当化の論理を見ていきましょう。

インスピレーションの世界:神秘体験と創造性

最初の正当化の論理は、霊感やインスピレーションに関わるものです。参加者の多くが、サイケデリックの使用によって「現実のヴェールの向こう側を見た」と表現し、神秘的・宗教的・スピリチュアルな体験が得られたことを語りました。

芸術的なインスピレーションも重要な動機です。サイケデリック体験によって普段はアクセスできない心の領域が開かれ、新たな世界観や創作の源泉が得られるといいます。こうした参加者にとって、サイケデリックは「違法薬物」ではなく、「エンセオジェン(神聖な植物)」「聖体」「スピリチュアルな修行」として意味づけられていました。実際に、2024年にはフィンランド・サイケデリック教育・文化協会が出版した書籍で、60名以上のフィンランド人アーティストがサイケデリックと創造性の関係を語っています(Arkko et al., 2024)。

家庭の世界:人間関係の絆と伝統

違法薬物の使用と「家庭」や「伝統」という概念は、一見すると矛盾しているように思えるかもしれません。しかし、多くの参加者が人間関係の文脈でサイケデリックの使用を正当化していました。

たとえば、信頼できる友人から自己治療の成功体験を聞いたことがきっかけで使用を始めたケースや、パートナーや親しい友人と一緒に使用することで絆が深まったという報告があります。パートナーが使用に理解を示していれば、感情的・身体的・親密な距離が縮まるという効果が語られました。一方、パートナーが懐疑的であったり法的リスクを恐れていたりする場合には、むしろ対立の原因になることもあったようです。

また、先住民の伝統的な儀式やヒーリングリトリートの文脈でサイケデリックを位置づける参加者もいました。彼らにとってサイケデリックは古い文化伝統の一部であり、リトリートという組織化された場での使用は「正統な」方法として捉えられていたのです。

名声の世界:著名人とカウンターカルチャーの影響

サイケデリックの世界には、多くの象徴的な人物が存在します。参加者たちは、1960年代のカウンターカルチャーを牽引したティモシー・リアリーやオルダス・ハクスリーの著書『知覚の扉』、テレンス・マッケナの思想、さらにはジョー・ローガンのポッドキャストや神経科学者サム・ハリスなど、新旧さまざまな「権威ある人物」の影響を受けていることを語りました。

こうした著名人の経験談や主張は、参加者にとって「信頼できる専門家が認めている」という心理的な後ろ盾となり、使用を正当化する根拠のひとつになっていたのです。この世界の正当化にはユーモラスで逸話的な要素も多く、サイケデリック・サブカルチャーのゴンゾー的な精神が色濃く反映されていました。

市民の世界:社会貢献とメンタルヘルス

市民の世界では、サイケデリックの使用がより広い社会的文脈で正当化されます。参加者は、共感力の向上、他者とのつながりの強化、人類に対する感謝の念などを体験として挙げ、「個人が良くなることで社会も良くなる」というロジックを展開しました。

特にメンタルヘルスの改善が社会全体にとっての利益であるという主張は強力でした。精神疾患による苦しみは不公正であり、サイケデリック療法にはそれを解消する潜在力があるという考え方です。実際に、サイケデリックの使用後にボランティア活動や第三セクターの活動に積極的に参加するようになったという報告もありました。

北欧特有の文化的背景として、福祉国家の伝統に基づく「より良い社会への貢献」という価値観が、この正当化の根底にあることも注目に値します。シロシビンの入手方法においても、友人や知人から無料、あるいはわずかな費用で分けてもらうケースが多く、通常の違法薬物取引の市場論理とは一線を画していました。

産業の世界:科学的エビデンスと医療的活用

もっとも頻繁に用いられた正当化の枠組みが、この「産業の世界」でした。ここでは、科学的根拠と医療的専門知識が、使用を正当化する中心的な論拠となります。

参加者たちは、シロシビンが脳の可塑性を高めるという研究成果(Calder & Hasler, 2023)や、うつ病・不安障害・トラウマ・依存症に対する有望な臨床データを流暢に引用しながら、自身の使用を説明しました。「科学と医療の最前線がサイケデリックの可能性を認めている」という論理は、違法薬物としてのスティグマ(社会的烙印)に対する強力な防御壁として機能していたのです。

一部の参加者は、仕事の生産性向上やアート関連の着想にサイケデリックが役立つと述べています。メンタルヘルスの専門職に就いている参加者は、サイケデリック療法の将来的な臨床応用への関心から使用していました。こうした文脈では、サイケデリックは「違法薬物」ではなく、適切な知識・用量・セッティングのもとで活用できる「テクノロジー」や「薬理学的介入」として再定義されていたのです。

エコロジーの世界:自然とのつながりの回復

エコロジーの世界では、サイケデリック体験が自然との結びつきを深めるという報告がなされました。「すべてはひとつ」という神秘的体験を通じて、自然体験や自然への愛着が強まり、より環境に配慮した生活スタイルへとシフトしたという参加者もいます。

これは先行研究とも一致する知見です。Forstmann & Sagioglou(2017)は、サイケデリックの使用体験が自然との一体感を高め、それが共感性や環境配慮行動の向上につながることを実証しています。植物由来のサイケデリックのみを使用する参加者にとっては、自然が「授けてくれた贈り物」としてシロシビンを位置づけることで、その使用をさらに正当化する根拠となっていました。

自己の世界:快楽・好奇心・自己成長

本研究でもっとも新規性の高い発見が、この「自己の世界」の概念です。既存の正当化理論には個人主義的な動機を包括する枠組みがなかったため、研究者たちはデータに基づいて新たな世界を構築しました。

自己の世界に含まれる正当化は、きわめて多彩です。好奇心から変性意識状態を体験してみたいという欲求、美しい幾何学模様の幻覚を見る喜び、音楽と一体化するような感覚の強化、使用中や使用後の多幸感、感情の解放、個人的な洞察の獲得などが報告されました。

特筆すべきは、自己治療や精神的成長を主な動機としている参加者であっても、快楽や楽しさの要素を率直に認めていた点です。「癒しのために使っている。でも正直、トリップは楽しい」「スピリチュアルな成長が目的だが、率直に言ってかなり楽しい」といった声が聞かれました。この「楽しさ」は、治療効果を損なうものではなく、むしろ治療プロセスの一部として不可分な要素である可能性が示唆されています。

参加者のなかには、サイケデリックを趣味やリラクゼーション、日常からの解放、コンサート体験の強化といった、より明確にレクリエーション的な文脈で使用するケースも報告されていました。こうした快楽志向の動機は、臨床研究では往々にして無視されるか、否定的に扱われがちです。しかし、現実の使用者にとっては、自己成長と快楽は相互排他的なものではなく、サイケデリック体験の異なる側面として共存しているのです。

臨床研究が見落としてきた「快楽」の治療的意義

サイケデリック研究の「新しい波」と呼ばれる現代の臨床研究は、うつ病やPTSD、依存症といった精神疾患への治療効果に焦点を当てています。ジョンズ・ホプキンス大学やインペリアル・カレッジ・ロンドンを中心とした研究は大きな成果を上げていますが、一方で見落とされてきた側面もあります。それが、サイケデリック体験における「快楽」や「ポジティブな感情」の役割です。

Bøhling(2017)は、快楽がサイケデリック体験において重要かつ研究が不足している側面であると指摘しています。また、Goldy et al.(2024)は、サイケデリック体験における肯定的な感情の役割を理解することが、急性の主観的効果と治療成果のつながりを解明する鍵になる可能性を提示しました。

本研究の参加者たちの語りは、この視点を裏付けるものでした。治療的な使用であっても、体験そのものの楽しさや畏敬の念、感謝の感情は切り離せないものであり、むしろそれらの肯定的感情こそが治療効果の一端を担っている可能性があるのです。医学的治療が「つらく、苦しいプロセス」であるという固定観念に、この研究は一石を投じています。

使用者はサイケデリックを「他の薬物」と明確に区別している

研究結果において一貫して見られたテーマのひとつが、参加者がサイケデリックを他の薬物や酩酊物質とはっきりと区別していた点です。この区別は、自己体験に基づく治療的・有益的な効果を根拠としてなされていました。

具体的には、サイケデリックの使用がうつ症状や不安の軽減に役立ったこと、大麻やアルコールの使用量を減らしたり完全にやめたりするきっかけになったことなどが挙げられています。こうした効果は、医療機関外での自然発生的な使用(naturalistic use)においても報告されており、先行研究(Garcia-Romeu et al., 2019, 2020)とも整合しています。

参加者たちは、複数の「世界」にまたがる正当化を流動的に組み合わせていました。たとえば、「科学的エビデンスが有効性を示している」(産業の世界)と語りつつ、「でも体験自体が魅力的で心を揺さぶるものだった」(自己の世界)と付け加えるような語り方です。このような多層的な正当化のスタイルは、サイケデリックが現代のフィンランド社会において文化的に定まった位置を持っていないことを反映しています。公的には違法薬物として扱われている一方で、使用者のナラティブ(語り)の中では、さまざまな恩恵を伴う多面的な体験として位置づけられているのです。

研究の限界と今後の展望:誰の声が聞かれているか

本研究にはいくつかの限界があります。まず、参加者が都市部在住で高学歴の男性に偏っていた点が挙げられます。これは、薬物使用がフィンランドでは男性に多いという統計的傾向(Karjalainen et al., 2023)や、女性の薬物使用に対するスティグマがより強いこと(Viña, 2025)とも関連しています。

また、正当化理論はもともと公的な論争や職場での議論を分析するために設計された枠組みであり、プライベートなインタビューにそのまま適用することの妥当性には留意が必要です。とはいえ、研究者たちは、プライベートな場でも人は公的な議論と類似の正当化パターンを用いる傾向があると指摘しています。

今後の研究に向けて、いくつかの重要な方向性が示唆されます。第一に、快楽やポジティブな感情がサイケデリック療法の治療効果にどのように寄与しているかを、臨床研究の枠組みのなかでより体系的に検証すること。第二に、女性やマイノリティを含む、より多様な使用者層の声を聴取すること。そして第三に、使用者との共同研究(co-production of knowledge)の手法を取り入れ、当事者の視点をより深く反映させた研究デザインを構築することです。

まとめ:サイケデリック使用の動機は「治療」だけでは語れない

本記事で紹介したTsupari & Hupli(2025)の研究は、サイケデリック使用動機が治療目的だけに還元できない、きわめて多層的な現象であることを示しました。使用者は科学的エビデンスからスピリチュアリティ、人間関係の強化から環境意識の向上、そして快楽や好奇心まで、多彩な「世界」にまたがる正当化の論理を駆使しています。

なかでも、「自己の世界」という新しい分析概念を通じて浮かび上がった快楽の側面は、今後のサイケデリック研究に重要な示唆を与えるものです。臨床試験において「薬は苦いが効く」というパラダイムが当然視されるなかで、サイケデリック体験に内在するポジティブな感情体験が治療効果の一部を構成している可能性は、研究デザインそのものの再考を促します。

フィンランドでは現在、サイケデリックは依然として違法薬物に分類されています。しかし、研究の進展とともに、そのナラティブは「犯罪・死・絶望を引き起こす画一的な違法薬物カテゴリー」から、「多面的な価値を持つ複雑な物質」へと変化しつつあります。この変化の背景には、臨床研究の成果だけでなく、使用者自身が体験を通じて築き上げた正当化の論理が存在しているのです。

サイケデリック療法の将来を見据えるうえで、実験室の中だけでは見えない「使用者の声」に耳を傾けることの重要性を、本研究はあらためて教えてくれます。

Tsupari, M., & Hupli, A. (2025). From Science to Pleasure: Justifications of the use of classic psychedelics in Finland. Nordic Studies on Alcohol and Drugs, 43(1), 63–80. https://doi.org/10.1177/14550725251408251

本記事は情報提供のみを目的としており、医療アドバイスではありません。
精神的・身体的な問題を抱えている方は、必ず医療専門家にご相談ください。
また、日本国内でのサイケデリック物質の所持・使用は法律で禁止されています。

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この記事を書いた人
ユウスケ

米国リベラルアーツカレッジを2020年心理学専攻で卒業。大手戦略コンサルティングファームにて製薬メーカーの営業・マーケティング戦略立案に従事するなかで、従来の保険医療の限界を実感。この経験を通じて、より根本的な心身のケアアプローチの必要性を確信し、サイケデリック医療を学ぶ。InnerTrekにてオレゴン州認定サイケデリック・ファシリテーター養成プログラム修了(Cohort 4)。

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