サイケデリック療法に対する韓国精神科医の意識|アジア初調査が示す課題と可能性

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厳格な薬物政策で知られる韓国で、精神科医193名を対象としたアジア初のサイケデリック意識調査が2025年に発表され、国際的な注目を集めています。本記事では、この画期的な調査結果から見える韓国精神科医の知識と態度の実態、東アジア特有の課題、そして今後のサイケデリック療法の展望について紹介します。

韓国精神科医の約6割がサイケデリック療法に肯定的だが知識不足が深刻

2025年5月に学術誌Journal of Psychedelic Studiesに掲載された論文は、韓国の精神科専門医と精神科レジデント(研修医)を対象に、サイケデリックに関する知識と態度を調査した画期的な研究です。この研究が特に注目される理由は、東アジアの精神科医を対象とした調査としては初めてのものであり、厳格な薬物規制下にある地域の医療専門家がサイケデリック療法をどう捉えているかを明らかにした点にあります。

調査は2023年3月から6月にかけて、韓国国内の3つの精神科関連学術会議で実施されました。回答率は96.5%(200名中193名)という非常に高い水準で、回答者の約44%が精神科レジデント、56%が精神科専門医という構成でした。

結果として、約58%の回答者がサイケデリックは精神疾患の治療において重要な手段になり得ると肯定的に答えています。医療目的での合法化についても、約59%が賛成の立場を示しました。しかし同時に、サイケデリックの作用メカニズムについて正しく回答できたのはわずか30.6%にとどまりました。歴史的な名称に関する知識も58.1%と半数強にすぎず、サイケデリックが研究対象となっている精神疾患を正しく認識していた割合(63.5%)と比較すると、治療応用への関心は高いものの基礎的な知識が追いついていない構図が見えてきます。

注目すべきは、回答者の情報源に関するデータです。サイケデリックに関する情報を主にどこから得ているかという質問に対して、最も多かったのは「学術会議」で36.8%、次いで「マスメディア」が26.9%でした。学術論文を主要な情報源としている割合はわずか11.4%にとどまっています。この情報源の偏りが、知識の深さと正確性に影響している可能性は否定できません。

つまり、多くの韓国の精神科医がサイケデリック療法の可能性に関心を持ちながらも、その科学的基盤についての理解が十分でないことが浮き彫りになったのです。

セロトニンではなくドーパミン?知識のギャップが示すもの

この調査で最も興味深い発見の一つが、サイケデリックの作用機序に関する回答の偏りです。クラシック・サイケデリック(シロシビン、LSD、DMTなど)と呼ばれるグループは、主に脳内のセロトニン5-HT2A受容体に作用します。セロトニン受容体とは、気分や感情、知覚の調整に関わる脳内の「鍵穴」のようなもので、サイケデリックはその鍵穴にぴったりはまる「鍵」のように働き、意識の変容を引き起こします。

ところが韓国の調査では、全体の46.6%がドーパミンを正解として選択しました。正しくセロトニンと答えたのは30.6%に過ぎません。これは米国で行われた同様の調査と比べると大きな差があります。米国の精神科医を対象としたバーネットらの調査では、76.7%がセロトニンと正しく回答しており、ドーパミンを選んだのはわずか11.7%でした。

なぜこれほどの差が生じるのでしょうか。ドーパミンは一般的に「報酬系」や「依存性」と結びつけて語られる神経伝達物質です。韓国の精神科医の多くがサイケデリックの作用をドーパミン系と認識していたことは、これらの物質が依然として「依存性のある危険な薬物」として捉えられている可能性を示唆しています。

レジデントと専門医の間に見られる知識の差

調査では、精神科レジデント(研修医)と認定精神科専門医の間にも興味深い違いが確認されました。作用メカニズムに関する正答率では、専門医が38.0%であるのに対し、レジデントは21.2%と有意に低い結果となっています。

この差の背景には、専門医の約42%が大学病院で勤務しており、最新の研究知見にアクセスしやすい環境にいることが考えられます。一方でレジデントは、MDMAをクラシック・サイケデリックと誤って分類する割合も高く(37.6%対19.4%)、サイケデリックの分類体系そのものについての理解が不足していることがわかりました。ちなみにMDMAは、共感や社会的結合を強める作用から「エンパソジェン(共感薬)」と呼ばれるカテゴリーに分類され、セロトニン5-HT2A受容体を介して作用するクラシック・サイケデリックとは異なるメカニズムを持っています。

東アジアの厳格な薬物政策がサイケデリック研究に与える影響

韓国をはじめとする東アジア諸国は、世界的に見ても最も厳格な薬物政策を採用している地域の一つです。韓国では「麻薬類管理に関する法律」のもと、向精神薬は麻薬と同一の法的カテゴリーに分類されています。この分類は、睡眠薬(例えばゾルピデム)のような医療で日常的に使用される薬物さえも法的には「麻薬」と同じ扱いを受けることを意味しており、韓国のテレビ報道では睡眠薬が「違法な麻薬」として報じられた事例もあるほどです。

こうした厳格な法的枠組みは、サイケデリック研究にも大きな影響を与えています。論文の著者らによれば、過去10年間に東アジアでサイケデリック関連の研究は一件も発表されていないといいます。この状況は、インペリアル・カレッジ・ロンドンやジョンズ・ホプキンス大学がサイケデリック研究専門のセンターを設立し、数百件の臨床試験が進行する欧米の動きとは対照的です。

韓国だけでなく、日本、台湾、中国といった東アジアの他の国々も同様に厳しい薬物政策を維持しています。日本では麻薬及び向精神薬取締法のもとでシロシビンは規制対象であり、中国では薬物使用者に対する監視体制が報告されるなど、地域全体として薬物への取り締まりが強化されてきた歴史があります。こうした規制環境は、たとえ医療研究目的であっても、サイケデリック物質を用いた臨床試験を実施すること自体のハードルを著しく高めているのです。

「麻薬との戦争」宣言と社会的スティグマ

韓国における薬物への厳しい姿勢は、近年さらに強化されています。2022年には韓国の検察統計で麻薬犯罪の摘発件数が過去最多を記録し、政府は「麻薬との戦争」を宣言しました。このような社会的背景は、医療目的であってもサイケデリック物質の研究や使用に対する心理的障壁を高めています。

実際に調査でも、サイケデリックの医療利用が合法化された場合に最も懸念される点として、74.6%の回答者が「乱用リスク」を挙げました。さらに18.7%が「依存性の可能性」を懸念しています。既存の研究ではシロシビンやLSDなどのクラシック・サイケデリックの依存性は低いとされていますが、韓国の精神科医の間ではまだそうした認識が十分に浸透していないことがわかります。

一方で、レクリエーション(娯楽)目的でのサイケデリック使用の合法化については、約70%が否定的な見解を示しています。この点は興味深いことに、米国での同様の調査結果とほぼ一致しています。論文の著者らは、精神科医が日常的に薬物乱用による悪影響を受けた患者を診療する中で、娯楽目的での使用に対する警戒心は文化圏を問わず共通している可能性を指摘しています。

法律改正への強い賛成意見

特筆すべきは、こうした慎重な姿勢がある一方で、法的分類の見直しには強い支持があったことです。「向精神薬を麻薬とは別のカテゴリーに分類すべきか」という質問に対して、76.2%の回答者が肯定的な回答を示しました。特に専門医ではその傾向が顕著で、「強く賛成」と答えた割合はレジデントの17.6%に対し、専門医では51.9%に上りました。

この結果は、臨床経験を積んだ精神科医ほど、現行の法律が薬物の多様な性質を反映しておらず、重症患者に対する適切な治療の妨げになっていると感じていることを示しています。韓国では向精神薬を処方する際に麻薬と同じ管理体制が適用されるため、臨床現場での使い勝手が悪く、患者にも不必要なスティグマ(偏見や差別)を与えているという問題が長年指摘されてきました。

性差がサイケデリック療法への態度に影響する

さらに、この調査では、サイケデリックに対する態度に影響を与える人口統計学的要因についても分析が行われました。その結果、女性であることがサイケデリックの医療利用に対する肯定的態度の低さと統計的に有意に関連していることが明らかになりました。

具体的には、サイケデリックが精神疾患治療の重要な手段になるかという質問に対して、女性は男性に比べて肯定的に回答するオッズ比(ある事象が起こる確率を比較する統計指標)が0.415でした。つまり、女性が肯定的に回答する確率は男性の半分以下だったということです。合法化に関する質問でも同様の傾向が見られ、オッズ比は0.353とさらに低い値を示しました。

米国での先行研究でも、女性は男性に比べてサイケデリックの使用や合法化に対して消極的な態度を示す傾向が報告されています。ただし米国の場合は「男性の方がサイケデリックの使用経験が多い」ことが一因と推測されていました。韓国では薬物へのアクセスが極めて限られているため、使用経験の差では説明がつきません。

研究チームは、女性の回答者においてサイケデリックの作用をドーパミン系と誤って認識する割合が高かったことに注目し、サイケデリックに関する事前知識が態度に影響を与えている可能性を指摘しています。つまり、正確な科学的情報が提供されれば、性差による態度の違いは縮小する可能性があるということです。

なお、調査全体の性別比は男性が約68%、女性が約32%で、レジデント群では女性の割合が42.4%と専門医群(24.1%)よりも高い傾向がありました。韓国の精神科領域でも若手世代を中心に女性医師の割合が増加していることを考えると、今後の教育プログラムでは、性別による知識や態度の違いを踏まえた、よりきめ細かいアプローチが求められるかもしれません。

世界のサイケデリック療法の最新動向と韓国との温度差

韓国の精神科医のサイケデリック療法に対する肯定的な態度(約58%)は、米国と比較すると明確に低い水準です。米国でのバーネットらの調査では、精神科医の80.4%がサイケデリックの医療利用に肯定的であり、米国の医学生を対象とした調査でも78.6%が肯定的でした。

オーストラリアが切り拓いた医療合法化の先例

世界のサイケデリック療法の最前線を理解する上で、オーストラリアの動きは特に重要です。2023年7月、オーストラリアは世界で初めてシロシビンとMDMAを特定の精神疾患の治療薬として正式に認可しました。認可を受けた精神科医は、治療抵抗性うつ病に対してシロシビンを、PTSDに対してMDMAを処方することが可能になっています。

この決定は、既存の治療法では十分な効果が得られない患者のために新しい選択肢を提供する必要があるとの認識に基づいています。ただし厳格な条件が設けられており、処方できるのは人権倫理審査委員会の承認を得た認定精神科医のみで、投与は管理された臨床環境下でのみ行われます。

欧米の研究拠点と臨床試験の急拡大

サイケデリック療法の研究は、欧米の主要大学が中心となって急速に拡大しています。2019年にはインペリアル・カレッジ・ロンドンが世界初のサイケデリック研究センターを設立し、同年にはジョンズ・ホプキンス大学も幻覚剤意識研究センターを開設しました。その後、カリフォルニア大学バークレー校、マウントサイナイ医科大学なども次々と専門センターを設けています。

シロシビンに関しては、治療抵抗性うつ病を対象とした大規模臨床試験で有望な結果が報告されており、米国FDA(食品医薬品局)はシロシビンに「ブレイクスルー・セラピー(画期的治療薬)」の指定を与えています。これは、既存の治療法よりも大幅な改善が見込まれる薬剤に対して審査を迅速化するための特別な制度です。

こうした世界的なムーブメントと比較すると、東アジアにおけるサイケデリック研究の空白は際立っています。韓国サイケデリック研究グループ(Korea Psychedelic Research Group)が今回の調査を実施したこと自体が、この分野における東アジアの第一歩と言えるでしょう。

セットとセッティング:文化が薬の体験を左右する

サイケデリック療法を語る上で欠かせない概念が「セットとセッティング」です。セットとは、サイケデリックを使用する個人の心理状態、期待、信念、文化的背景などの内的条件を指します。セッティングとは、物理的な環境、治療者との関係性、音楽や照明といった外的条件のことです。この二つの要素が、サイケデリック体験の質を大きく左右することが知られています。

この概念は1960年代にティモシー・リアリーらによって提唱され、その後の研究でもサイケデリック体験の個人差を説明する重要な要因として広く認められています。今回の韓国での調査が示唆しているのは、文化的背景がセットの一部として作用し、薬物に対する態度や治療効果に影響を及ぼす可能性があるということです。

東アジアにおける薬物への強いスティグマは、たとえ医療目的であっても、サイケデリック体験に対するネガティブな期待や不安を増大させる可能性があります。たとえば、今回の調査で回答者の約50%が最近得たサイケデリック関連の情報として「治療への応用などポジティブな情報」を挙げた一方、約33%は「違法性や有害性などネガティブな情報」が最も印象に残っていると答えました。このような情報環境のばらつきが、臨床現場での態度にも影響を及ぼしていると考えられます。

また、人種や民族的な背景がサイケデリック体験に影響を与えることは、米国における研究でも示されています。文化的な価値観、スピリチュアリティとの関わり方、社会的に期待される行動規範などが、セットの構成要素として作用するのです。東アジアでは、薬物使用そのものが道徳的な逸脱と見なされやすい傾向があり、この文化的文脈がサイケデリック療法の受容に独自の課題をもたらす可能性があります。

逆に言えば、正確な情報提供と教育を通じてこうした先入観を軽減することが、将来サイケデリック療法が東アジアで導入される際の成功を左右する鍵になるかもしれません。

治療を求める患者にとっての意味

サイケデリック療法が最も期待されているのは、従来の治療法では十分な効果が得られない「治療抵抗性」の精神疾患です。今回の調査でも、韓国の精神科医の67.4%がサイケデリックの最も期待される適応症としてうつ病を挙げています。実際、韓国では2020年からエスケタミン(ケタミンの光学異性体)の鼻腔スプレーが治療抵抗性うつ病の治療薬として承認されており、この分野への関心は着実に高まっています。

しかし、治療者自身の態度や信念が治療効果に影響を与えるというサイケデリック療法の特性を考えると、精神科医への教育と意識啓発は患者の利益に直結する課題です。治療者がサイケデリックに対して過度な不安や偏見を持っていれば、それが患者にも伝わり、治療の質に影響を及ぼす可能性があるからです。

まとめ:東アジアのサイケデリック療法は教育と対話から始まる

今回の韓国での調査は、東アジアの精神科医がサイケデリック療法の可能性に確かな関心を持ちながらも、知識面での大きなギャップがあることを明確に示しました。約58%が治療的利用に肯定的である一方、作用機序を正しく理解している割合は30.6%にとどまり、多くがサイケデリックを依存性のある物質として認識している現状があります。

この研究が示す最も重要なメッセージは、教育の必要性です。サイケデリック療法の有効性や安全性に関する科学的エビデンスが蓄積される中で、東アジアの医療専門家がこの分野のグローバルトレンドから取り残されないためには、正確で最新の情報を体系的に提供する仕組みが不可欠です。具体的には、精神科レジデントの教育カリキュラムにサイケデリックの薬理学的知識を組み込むこと、学術会議での情報発信を強化すること、そして査読付き論文へのアクセスを促進することが考えられます。

ただし、この調査にはいくつかの限界も指摘されています。学術会議の参加者を対象とした便宜的サンプリングであるため、韓国全体の精神科医の意見を代表しているとは限りません。また、回答者の約42%が大学病院所属であり、開業医や一般病院勤務の精神科医の見解は十分に反映されていない可能性があります。さらに、今回の調査はサイケデリックの薬理学的側面に焦点を当てており、サイケデリック療法において不可欠な心理療法的要素(セラピストが患者に寄り添いながら体験をガイドする過程)については質問に含まれていませんでした。

それでも、韓国をはじめとする東アジア諸国では、薬物政策と医療利用のバランスをどう取るかという法的・倫理的議論は避けて通れません。向精神薬を麻薬と同じカテゴリーに分類する現行法の見直しを求める声が76%に上ったことは、臨床の現場から強い問題意識が発せられていることを物語っています。

サイケデリック療法は世界的に見ても、まだ発展途上の領域です。しかし、治療抵抗性うつ病やPTSDに苦しむ患者にとって、従来の治療法とは異なるアプローチが切実に必要とされています。東アジアにおけるサイケデリック研究の第一歩とも言えるこの調査が、今後の教育活動や政策議論の基盤となり、患者のための新しい治療選択肢の開発につながることが期待されます。

Choi, W.-S., Hong, J., Jang, S.-H., Lee, J. G., Sohn, I., Lilienthal, F., Seo, J. S., Kim, N.-Y., Jang, O.-J., & Jon, D.-I. (2025). Knowledge and attitudes about the use of psychedelic drugs among psychiatric professionals in Korea. Journal of Psychedelic Studies, 9(4), 385–394. https://doi.org/10.1556/2054.2025.00424

本記事は情報提供のみを目的としており、医療アドバイスではありません。
精神的・身体的な問題を抱えている方は、必ず医療専門家にご相談ください。
また、日本国内でのサイケデリック物質の所持・使用は法律で禁止されています。

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この記事を書いた人
ユウスケ

米国リベラルアーツカレッジを2020年心理学専攻で卒業。大手戦略コンサルティングファームにて製薬メーカーの営業・マーケティング戦略立案に従事するなかで、従来の保険医療の限界を実感。この経験を通じて、より根本的な心身のケアアプローチの必要性を確信し、サイケデリック医療を学ぶ。InnerTrekにてオレゴン州認定サイケデリック・ファシリテーター養成プログラム修了(Cohort 4)。

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