サイケデリック療法の心理的サポートはなぜ重要か|研究報告の質的課題

研究

近年注目を集めるサイケデリック療法ですが、実は臨床試験における「心理的サポート」の詳細が十分に報告されていないことが明らかになりました。本記事では、33件の臨床試験を分析したシステマティックレビューを基に、サイケデリック療法における心理社会的介入の重要性と、研究報告の質的課題について紹介します。

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心理的サポートの役割が過小評価されている

心理的サポートの役割が過小評価されている

サイケデリック療法における治療効果は、薬物だけでなく心理的サポートが大きな役割を果たしています。しかし、多くの臨床試験では、この重要な要素が十分に報告されていません。

ジョンズ・ホプキンス大学やインペリアル・カレッジ・ロンドンなどの主要研究機関で実施された臨床試験の報告を分析した結果、心理社会的介入(PI)に関する基本的な情報が欠落しているケースが多数見つかりました。PIとは、準備セッション、投薬セッション中の付き添い、統合セッションなど、セラピストやファシリテーターが提供する薬物以外のすべてのサポートを指します。

この問題は、治療の再現性や標準化を困難にし、実際の医療現場での実装を妨げる要因となっています。

報告の質的課題:何が欠けているのか

2023年に発表されたシステマティックレビューでは、2000年以降に発表された33件のサイケデリック臨床試験を分析しました。その結果、以下のような深刻な報告不足が明らかになりました。

研究チームは、シロシビン、LSD、DMT、アヤワスカ、MDMAなどの物質を用いた臨床試験を対象に、心理的サポートに関する報告の質を評価しました。評価項目には、セッション回数、セッション時間、セラピストの資格、治療マニュアルの使用、治療の忠実性評価などが含まれています。

驚くべきことに、33%の研究がセッション回数を報告しておらず、45%がセッション時間を記載していませんでした。さらに、42%がセラピストの資格情報を提供せず、82%が治療の忠実性(プロトコル通りに治療が実施されたかの評価)を測定していないことが判明しました。

非サイケデリック研究との比較

この研究では、サイケデリック療法の報告実践を、他の複合的介入を用いた非サイケデリック臨床試験と比較しました。その結果、16項目中6項目において、サイケデリック試験の報告が10ポイント以上低いスコアを示しました。

特に問題だったのは、治療環境、セラピストの資格、セッション回数、介入支援材料、参加者への個別対応、治療忠実性の結果に関する項目です。これらは心理社会的介入の質と効果を評価する上で極めて重要な要素です。

一方で、サイケデリック試験は補足資料の提供や図表による説明において、非サイケデリック試験を上回る結果を示しました。これは、研究者が主要論文の文字数制限を補足資料で補おうとする試みと考えられます。

心理的サポートが治療成果に与える影響

心理的サポートが治療成果に与える影響

治療同盟が抑うつ症状の改善を予測する

マーフィーらの研究では、治療同盟(セラピストと患者の協力関係)がサイケデリック療法の成果に直接影響することが初めて実証されました。中等度から重度のうつ病患者を対象としたシロシビン療法の臨床試験で、最初の投薬セッション前の治療同盟の強さが、セッション前のラポール(信頼関係)を予測し、それがセッション中の感情的ブレイクスルーのスコアを高め、最終的に6週間後の抑うつ症状のより大きな減少につながったのです。

さらに興味深いことに、最初のセッション中の感情的ブレイクスルーが、2回目のセッションに向けた治療同盟の強化を予測しました。この強化された同盟は、ラポールと神秘的体験を通じて、6週間後の抑うつ症状の減少に独自に貢献しました。

この研究は、伝統的な心理療法で観察されるプロセス、つまり強い治療関係を感じる参加者がセラピストの前でより困難な個人的素材を探求しやすくなり、それがさらに治療同盟を強化し、治療効果を高めるという相互強化プロセスが、サイケデリック療法でも同様に機能することを示しています。

サポート量の違いが長期的成果に影響

グリフィスらが実施した重要な研究では、高サポート条件(35時間)と低サポート条件(7時間20分)を比較しました。この試験は健康なボランティアを対象に、2回のシロシビンセッションで構成されていました。

参加者は3つの条件にランダム化されました。超低用量(1mg/70kg)と標準サポート、高用量(20-30mg/70kg)と標準サポート、そして高用量と高サポートの3グループです。スピリチュアル・サポートには、瞑想実践に関する読書材料、自己省察日記、シロシビン投薬の準備指導、個人的なスピリチュアル実践の開発と維持のサポートが含まれました。

6ヶ月後のフォローアップで、高サポートグループの参加者は、両方の標準サポートグループと比較して、利他的・肯定的社会効果、肯定的行動変容、スピリチュアリティ、日記などの内省的実践への取り組み、シロシビン体験の永続的な個人的意義の測定値で有意に高いスコアを記録しました。

これらの結果は精神症状の直接的な減少を表すものではありませんが、精神医学的機能に関連する幸福度の尺度における改善を反映しています。この研究は、シロシビン投与に付随して提供される非薬物サポートの量が、サイケデリック療法の観察される効果に影響を与えうることを裏付けています。

参加者が語る心理的サポートの重要性

サイケデリック療法における心理社会的介入の重要性を示すもう一つの証拠源は、臨床試験参加者やファシリテート付きリトリートなどの類似した文脈でサイケデリック治療を受けた人々の体験です。

ファシリテーターと参加者の関係の役割について調査した複数の質的研究では、その重要性に対する全員一致またはほぼ全員一致の支持が見られました。ラフランスらは、インタビューした16人の参加者全員が、治癒の可能性を最大化し、リスクや害を最小化するために、安全な儀式構造とリーダーシップの重要性を強調したと報告しています。

同様に、ワッツらは、「全体として、熟練したガイドからのサポートは、20人中17人の患者によって介入の重要な部分と見なされました」と発見しました。参加者の具体的な発言には、安全性と対人サポートのテーマが強調されています。

ある参加者は次のように述べています。

もしそれ(ファシリテーターとのラポール)がなかったら、うまくいくかどうかわかりません。人々があなたにうまくいってほしいと思っていることがわかるとき、これがあなたのために機能してほしいと思っているとき。

また、別の参加者は、セッションファシリテーターが提供する安全性の重要性について語っています。

安全性は100%重要です。なぜなら、安全だと感じなければトラウマを解決できないからです。安全性はトラウマの一部だからです。だから、スペースを保持している人々が非常に熟練した方法でそれを行っていると本当に感じることが大切です。

安全性の観点から見る心理的サポート

安全性の観点から見る心理的サポート

サイケデリック療法臨床試験における有害事象の最近のレビューの著者たちは、安全な参加者環境を確立する上での心理社会的介入の潜在的重要性についても指摘しています。「肯定的な文脈要素を減少または最小化する治療デザイン(例:患者の準備に費やす時間、セラピストの数、治療関係の強さ、アフターケアと統合を提供する時間)は、有害事象の発生率を増加させる可能性がある」と述べています。

非医療用シロシビン使用に対して重度の有害反応を経験した患者に関するケースレポートの著者たちも同様に、「規制当局は、特異体質的な薬物反応から生じる潜在的な害から保護するために、サイケデリック療法を提供する環境で特定の最低限の安全性と心理療法プロトコルの実施を要求することを検討する必要があるかもしれない」と主張しました。

しかし、安全性と心理社会的介入の間に「多ければ安全」という公式的な関係を想定するのは軽率でしょう。ある試験参加者の証言は、セラピストからの過剰で境界の定まっていないサポートが、性的不正行為につながったことを示唆しています。

他の数人の参加者も、サイケデリック療法試験のセラピストに対する強い依存感を報告しており、これをMDMAと提供された集中的サポートの複合効果に帰しています。これらの参加者は、この依存が試験後の精神機能の深刻な悪化に寄与したと主張しました。彼らの見解は、サイケデリック療法における心理社会的介入と安全性の関係についての単純な理解に警告を発する一方で、この関係がより徹底的で微妙な検討を必要とするという主張に重みを加えています。

報告慣行の改善に向けた具体的提言

報告慣行の改善に向けた具体的提言

TIDieRチェックリストに基づく9つの推奨事項

研究チームは、CONSORT延長声明とTIDieRチェックリストに基づき、サイケデリック臨床試験における報告慣行を改善するための9つの具体的推奨事項を提示しました。

治療環境の詳細な記述が求められます。薬物投与セッションに使用される空間の詳細な説明を含めることで、治療環境が参加者の体験に与える影響を評価できるようになります。

提供者の資格とトレーニングについては、セラピストやファシリテーターの専門資格だけでなく、試験に関連した追加訓練についても報告する必要があります。これは治療の質を評価し、将来の実践者が必要な準備を理解する上で不可欠です。

セッション数と時間の明確な報告も重要です。非薬物セッションの平均回数だけでなく、個人差がある場合はその影響も記載すべきです。また、スクリーニング訪問、インテーク、フォローアップ電話なども含めた、セラピストやファシリテーターによる非薬物的サポートの総時間数を報告することが推奨されます。

治療マニュアルの参照と公開は、治療の標準化と再現性にとって極めて重要です。非薬物的心理社会的介入がどのように標準化されたかを明記し、可能な場合は試験特有のマニュアルや使用された資料へのアクセスを提供すべきです。

心理教育資料や技術プラットフォームの説明や提供も必要です。参加者に使用された準備用配布資料やビデオなどの資料を記述することで、治療の全体像が明確になります。

参加者への個別調整がある場合は、その内容と根拠を示すことが求められます。非薬物的サポートや提供者との接触における個人差がある場合、その理由を説明する必要があります。

最も重要な推奨事項の一つが治療忠実度の評価と報告です。現状では、評価を実施したと報告した試験はわずか18%で、その結果を報告した試験は皆無でした。多成分介入全体に対する忠実度を評価し、その結果を報告することで、治療が意図した通りに実施されたかを検証できます。

まとめ:標準化された報告の必要性

サイケデリック療法の心理社会的介入に関する報告実践には重大な欠陥があり、これが治療の再現性や標準化を妨げています。33件の臨床試験を分析した結果、セッション回数、時間、セラピストの資格、治療マニュアルの使用、治療忠実性評価など、基本的な情報が欠落しているケースが多数見つかりました。

しかし、多くの証拠が心理的サポートの重要性を示しています。治療同盟の強さは治療成果を予測し、サポート量の違いは長期的な効果に影響を与え、1960年代の研究でも心理療法の有無が結果を大きく左右しました。参加者自身も、安全な環境と熟練したファシリテーターの重要性を繰り返し強調しています。

今後、サイケデリック療法を医療現場に実装していくためには、心理社会的介入の詳細を適切に報告し、研究の透明性と再現性を確保することが不可欠です。推奨された9つの報告項目を将来の出版物に含めることで、この分野の研究標準化が促進され、治療成果の向上につながることが期待されます。サイケデリック療法の真の可能性を理解し、安全で効果的な治療を提供するためには、薬物だけでなく、それを支える心理的サポートの全体像を明らかにすることが重要なのです。

Brennan, W., Kelman, A. R., & Belser, A. B. (2023). A systematic review of reporting practices in psychedelic clinical trials: Psychological support, therapy, and psychosocial interventions. Psychedelic Medicine, 1(4), 218-229. https://doi.org/10.1089/psymed.2023.0007

本記事は情報提供のみを目的としており、医療アドバイスではありません。
精神的・身体的な問題を抱えている方は、必ず医療専門家にご相談ください。
また、日本国内でのサイケデリック物質の所持・使用は法律で禁止されています。

この記事を書いた人
ユウスケ

米国リベラルアーツカレッジを2020年心理学専攻で卒業。大手戦略コンサルティングファームにて製薬メーカーの営業・マーケティング戦略立案に従事するなかで、従来の保険医療の限界を実感。この経験を通じて、より根本的な心身のケアアプローチの必要性を確信し、サイケデリック医療を学ぶ。InnerTrekにてオレゴン州認定サイケデリック・ファシリテーター養成プログラム修了(Cohort 4)。

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