サイケデリックが大学の正式な学位として認められる時代が到来し、精神医療の新たな可能性が広がっています。本記事では、アメリカで初めて設立されるサイケデリック学の学士号プログラムと、急速に成長する精神薬物療法の最新動向について紹介します。
サイケデリック研究の学術的進化
サイケデリック(幻覚剤)は長い間、カウンターカルチャーや地下文化と関連付けられてきましたが、近年では正式な学術研究分野としての地位を確立しつつあります。2025年、サンフランシスコにある「カリフォルニア統合学研究所(CIIS)」は、全米初となるサイケデリック研究の学士号プログラムを開始します。


CIISは1968年に設立され、当初は禅思想に基づく瞑想とトランセンデンタル思想の場として構想され、東洋神秘主義に重点を置いていました。1980年代までに認定大学へと進化し、現在は心理学、哲学、意識研究に焦点を当て、変革的リーダーシップや身体心理学の修士プログラムなどユニークな学問分野を提供しています。
この新しいサイケデリック研究プログラムは心理学、文化人類学、神経科学など複数の学問分野を統合し、幻覚剤の歴史や文化的影響についても深く掘り下げる内容となっています。
CIISの心理学教授ニック・ウォーカー氏によると、このプログラムは近年急速に高まっているサイケデリック療法のトレーニング需要に応えるもので、2030年までにサイケデリック薬物市場は46億ドル(約6,900億円)以上に成長すると予測されています。
急成長するサイケデリック療法の現状
サイケデリック療法は、従来の精神医療では効果が見られなかった症状に対する新たなアプローチとして注目を集めています。2024年の時点で、アメリカ全土の約10大学が専門医療従事者や聖職者向けにサイケデリックトレーニングを提供しています。

- CIISは2016年から10ヶ月間の認定プログラムを開始し、MDMA、シロシビン、そしてFDA承認済みのケタミン補助療法の治療的使用について、既に1,000人以上の専門家と聖職者を訓練してきました。
- カリフォルニア大学バークレー校やコロラド州のナロパ大学も同様の認定コースを提供していますが、これらはすべて資格を持つ専門家向けでした。
- CIISの学士号プログラムは、学部生を対象とした全米初のプログラムとなります。
新しいプログラムの内容と特徴

この新しい先鋭的なプログラムは、学部3年生と4年生の約24人の「サイケデリックに興味を持つ」学生を対象としています。学生たちは主にコミュニティカレッジで一般教育の要件を満たした後、CIISに入学することになります。
カリキュラムはまだ開発中ですが、大学院の認定プログラムで既に行われているクラスのバージョンが含まれる可能性が高いとされています。たとえば、
- 意識の変容状態を通じて個人を導く没入型体験
- サイケデリック療法セッションを模倣するロールプレイング演習
- サイケデリック薬物の治療的使用に関する理論的学習
重要なのは、この学部プログラムではサイケデリック薬物の治療的使用について教えますが、実際の薬物体験を提供することはなく、いかなる形でも専門的なトレーニングプログラムではないということです。あくまで入門編という位置付けであり、ウォーカー教授は「サイケデリックファシリテーターになりたい場合は、専門の教育機関でのプログラムを修了し、ライセンスを取得する必要がある」と述べています。

倫理的考慮と安全性の重視
サイケデリック研究の分野では、倫理的問題と安全性の確保が特に重要です。2021年には、CIISの教員が運営するプログラムで一部の学生が性的虐待を受けたという報告がありました。これを受けて、現在ではすべての学生と教員は「誠実さの誓約」に署名し、共に働く人々との性的関係を持たないことを確認することが求められています。
ケタミン補助療法を専門とするCIISの心理学教授ジェイソン・バトラー氏は、「サイケデリック精神療法におけるタッチは最先端だが、リスクが高く、報酬も高い」と指摘し、「いかなるサイケデリック薬物を摂取する前にも、同意について話し合う必要がある」と強調しています。
サイケデリック研究の未来展望
サイケデリック研究分野は急速に発展しており、2025年にはCIISは学内にケタミン補助療法トレーニングクリニックも開設する予定とのことです。このクリニックでは、サイケデリック関連の研究に焦点を当てている大学院生(全員が資格を持つ臨床医または聖職者)によって運営されます。
ウォーカー教授は、「外部では非常に混沌とした状況だが、CIIS内では安全性と倫理について絶対に厳格である」と述べ、「卒業生が何をするにしても、高いレベルの理解、文化的謙虚さ、知的好奇心、批判的思考、そして倫理的誠実さを持っていくことを願っている」と付け加えています。
まとめ:学問としてのサイケデリック
アメリカで初めてのサイケデリック学の学士号プログラムの設立は、この分野が公式な学術研究として認められつつあることを示す重要な節目です。このような教育プログラムの発展により、サイケデリック療法の質と安全性が向上し、精神医療の新たな可能性が広がることが期待されます。日本においても、将来的にはこうした研究や治療法への関心が高まる可能性があるのでしょうか?これからの動向に目が離せません。
Stone, Z. (2024, November 6). The hot new college major in San Francisco? Psychedelic drugs. The Standard. https://sfstandard.com/2024/11/06/psychedelic-drugs-degree-ciis-san-francisco/
本記事は情報提供のみを目的としており、医療アドバイスではありません。
精神的・身体的な問題を抱えている方は、必ず医療専門家にご相談ください。
また、日本国内でのサイケデリック物質の所持・使用は法律で禁止されています。