サイケデリックに対する世論調査|UCバークレーが示す5つの変化

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アメリカ人はサイケデリックをどう見ているのか——カリフォルニア大学バークレー校が2026年5月に発表した全米規模の世論調査が、支持と偏見が複雑に入り混じるリアルな世論を浮き彫りにしました。本記事では、同調査が明らかにした5つの重要な発見を、背景や具体的データとともにわかりやすく紹介します。

サイケデリックへの支持は拡大しているが「条件付き」である

アメリカの有権者はサイケデリック——シロシビン(マジックマッシュルームの有効成分)やLSD、DMT、アヤワスカ、ケタミン、MDMAなどの意識変容物質——に対して、以前よりも肯定的です。ただしその支持は「医療の管理下で、専門家の監督のもとで使うなら」という条件付きであり、誰でも自由に使えるようにすべきだという声は少数派にとどまっています。

この全体像を描いたのが、カリフォルニア大学バークレー校サイケデリック科学センター(BCSP)が発表したレポート『A Rising Tide of Cautious Support(慎重な支持の高まり)』です。タイロン・スガンバティ博士、アンドレア・ヴェネツィア氏、クランダ・モーガン氏らの研究チームが、全米の登録有権者約1,577名を対象に実施しました。2023年に行われた初回調査との比較分析も含まれており、2年間で世論がどう動いたかを追跡できる貴重なデータです。

なぜ「世論」が重要なのか

どれほど優れた研究成果が蓄積されても、社会が受け入れる準備ができていなければ、法制度の変更もサイケデリック療法へのアクセス拡大も実現しません。レポートでも述べられているように、世論は「社会の準備度」を測るバロメーターです。サイケデリックは連邦法では依然として違法ですが、一部の州や自治体では非犯罪化や治療目的の使用が認められつつあります。さらに1994年のアメリカ・インディアン宗教自由法改正により、ネイティブ・アメリカン・チャーチがペヨーテを儀式で使用することが認められており、何百もの宗教団体がサイケデリックを聖なる物質として使っています。こうした複雑な法的状況のなかで、市民がどう感じているかを知ることは、政策立案者にとっても研究者にとっても不可欠なのです。

本調査はFM3リサーチ社と共同で実施され、全50州とワシントンD.C.の有権者名簿から確率抽出された代表性の高いサンプルを使用しています。誤差範囲は±2.5%(95%信頼水準)と、学術的に十分な精度を持つ調査です。

発見①:サイケデリックとの接近度が過去最高を記録

1つ目の発見は、サイケデリックが以前よりもはるかに多くのアメリカ人の「身近な存在」になっているということです。

ここ数年、アメリカではサイケデリックを取り巻く情報環境が大きく変わりました。マイケル・ポーランの著書とNetflixドキュメンタリー『How to Change Your Mind』が大きな話題を呼び、多数のポッドキャストがサイケデリックをテーマに発信を続けています。州レベルでも、少なくとも20の州がサイケデリック研究への資金提供や医療目的での使用に関する法案を検討しました。こうしたメディアや政策の動きが、一般市民の認知度を押し上げていると考えられます。

実際、有権者の74%が過去12ヶ月間にサイケデリックについて何らかの情報を見聞きしたと回答しています。そのうち33%は月1回以上の頻度で接触しており、情報への日常的な露出が進んでいることがわかります。一方で、まったく情報に触れていないと答えた有権者も20%存在しました。

急速にキャッチアップする3つの層

さらに注目すべきは、「自分自身または身近な人がサイケデリックを使用した経験がある」と答えた有権者が57%に達したことです。2023年の53%から有意に上昇しました。特に、黒人有権者(27%→42%、+15ポイント)、65歳以上の高齢者(36%→48%、+12ポイント)、保守派(44%→51%、+7ポイント)で急速な変化が起きています。いずれも統計的に有意な伸びであり、これまでサイケデリックとの接点が少なかった層が動き始めたことを示しています。ただし3グループとも全国平均をまだ下回っており、完全にキャッチアップしたわけではありません。

情報源の偏り——医療専門家はわずか10%

情報源としてはニュース報道が42%で最多、次いで映画・テレビ・ドキュメンタリー(35%)、対面での会話(28%)、ソーシャルメディア(28%)、ポッドキャスト(22%)と続きます。医療専門家から直接情報を得た人はわずか10%にとどまりました。この偏りは、一般市民が科学的根拠に基づいた正確な情報にアクセスしにくい状況を示しており、後述する「信頼度の低さ」とも深く関連しています。

発見②:専門家への信頼度が予想以上に低い

2つ目の発見は、サイケデリックに関する情報発信者として、医療や学術の専門家が十分に信頼されていないという現実です。

調査では7つの情報源について信頼度を尋ねましたが、どのカテゴリーも「非常に信頼できる」と回答した有権者は34%を超えませんでした。最も高いメンタルヘルス専門家でも34%、精神科以外の医療専門家で27%、大学教授で16%という結果です。とはいえ、ほぼすべてのカテゴリーで「やや信頼できる」が最多回答であったことは、信頼を構築する余地がまだあるという前向きなシグナルとも読み取れます。

政治的立場による深い溝

信頼度を政治的立場で分析すると、際立った差異が浮かび上がります。リベラル層ではメンタルヘルス専門家への信頼が49%に達したのに対し、保守層ではわずか20%でした。医療専門家もリベラル層36%に対し保守層19%、大学教授はリベラル29%対保守7%と、その差は歴然です。一方で保守層は「親・保護者」をリベラル層よりも有意に信頼しています。

レポートでは、この傾向がサイケデリック特有のものではなく、科学者や高等教育に対するアメリカ社会全体の信頼度の二極化と一致していると指摘されています。ピュー・リサーチ・センターの調査でも、民主党支持者の88%が科学者を信頼するのに対し、共和党支持者では66%にとどまるという類似のパターンが報告されています。

サイケデリックに関する正確な情報を届けるためには、医療専門家だけに頼る「一本足打法」では不十分で、それぞれの層が信頼するチャネルを複合的に活用する戦略が必要だといえるでしょう。

発見③:規制下の利用と科学研究への支持が急伸

3つ目の発見は、政策改革のなかでも「安全な枠組みの中での利用」を求める声が大きく伸びたということです。

科学者がサイケデリックを研究しやすくする政策に対する強い支持は、2023年の49%から2025年には63%へと14ポイント上昇しました。これは今回追跡したすべての政策提案のなかで最も高い支持率です。サイケデリックをFDA承認の処方薬にする案は29%→41%(+12ポイント)、サイケデリック療法を合法化する案は36%→46%(+10ポイント)と、いずれも有意な伸びを示しています。

個人使用の非犯罪化だけは伸び悩み

一方、個人使用目的での所持に対する刑事罰撤廃への支持は29%→28%とほぼ変わりませんでした。各地で非犯罪化条例が広がっているにもかかわらず、全米の有権者レベルでは支持が停滞しています。レポートはこの差について、多くの有権者がサイケデリックの可能性に興味を持ちつつも、安全性への懸念や歴史的なスティグマから「管理された環境での使用」をより支持していると分析しています。

高校での科学教育にも一定の支持

2025年に新たに追加された質問では、高校生にサイケデリックのリスクと利点について科学的事実に基づいた教育を行うプログラムへの支持が問われました。35%が「強く支持」、30%が「やや支持」と回答し、合計65%が何らかの形での公教育に前向きです。18歳未満の子を持つ親と持たない親の間に有意差はなく、教育ニーズは世代を問わず共有されていることがうかがえます。

発見④:PTSDや終末期ケアでの有用性に期待が集中

4つ目の発見は、有権者がサイケデリックに最も期待している用途が、深刻な精神的苦痛への対処に集中しているということです。

「かなり有用」または「非常に有用」と回答した割合が最も高かったのは終末期の苦痛(45%)でした。続いて治療抵抗性PTSD(41%)、PTSD(39%)、治療抵抗性うつ病・治療抵抗性不安障害(各37%)、トラウマ(35%)と並びます。「治療抵抗性」とは、一般的な薬物療法やカウンセリングでは十分な改善が得られない状態を指します。通常のうつ病(30%)や不安障害(26%)よりも治療抵抗性の症状に対する支持が高いことは、有権者が「他に手段がないときの最後の選択肢」としてサイケデリックを位置づけていることを示唆しています。

注目すべきは、医療以外の用途にも一定の支持があることです。「自然とのつながり」に有用だと答えた有権者は33%、「人生の満足度向上」は25%、「身体的な痛みの軽減」は28%でした。一方、「神とのつながり」は20%と最も低く、スピリチュアルな文脈での活用にはまだ慎重な姿勢が見られます。また、依存症治療への有用性は22%と控えめでしたが、依存症患者へのアクセスについては54%が規制下の治療を支持しており、「自分で使う」のではなく「治療として提供される」形への信頼が上回っていることがわかります。

「誰が」アクセスすべきか——対象者別の優先順位

興味深いのは、用途だけでなく「誰がアクセスできるべきか」にも明確な階層があった点です。終末期患者については86%が何らかの形でのアクセスを支持し(規制下の治療的アクセス48%+非犯罪化38%)、最も寛容な姿勢を示しました。うつ病患者に対しては60%、退役軍人は56%、依存症患者は54%が規制下の治療的アクセスを支持しています。一方、21歳以上の全成人への開放は37%にとどまりました。

このデータは、サイケデリックへのアクセスに関して「画一的な政策」ではなく、対象者の状況に応じた段階的なアプローチが有権者から求められていることを物語っています。

一方で、各用途について17〜33%の有権者が「わからない」と回答していることも見逃せません。サイケデリックの有効性と安全性についての知識が一般市民に十分行き渡っていない現状が、ここでも浮き彫りになっています。

発見⑤:スティグマと安全性への懸念は依然として根強い

5つ目の発見は、肯定的な変化と並行して、サイケデリックへの不安やスティグマ(社会的偏見)が根強く残っているということです。

アルコール・たばことの比較で見える認識のギャップ

サイケデリックがアルコールやたばこより安全かという問いに対し、「よく当てはまる」「非常によく当てはまる」と回答した有権者はわずか18〜20%でした。管理された環境下での使用が安全だと感じる人も37%にとどまっています。さらに35%が「依存性がある」、38%が「新たな精神疾患を引き起こしうる」、26%が「犯罪の原因になる」と回答しています。

保守層と高齢者で安全性への懸念は特に強く、サイケデリックが管理下で安全だと答えた保守層は26%で、リベラル層(50%)の約半分です。65歳以上では24%と、18〜54歳(41〜53%)を大きく下回りました。

また人種による違いも見逃せません。黒人有権者の50%がサイケデリックには依存性があると回答しており、非黒人有権者(34%)を大きく上回っています。新たな精神疾患を引き起こす可能性があるという回答も、黒人有権者では50%に達しました(非黒人は37%)。ただし興味深いことに、サイケデリックが犯罪の原因になるかという問いでは、黒人有権者(26%)と非黒人有権者(26%)に差はありませんでした。こうした層ごとの違いは、公教育のメッセージを誰に対してどのようにデザインするかを考える上で重要な手がかりとなります。

安全性に関する6つの質問全体を通じて、15〜25%の有権者が「わからない」と答えている点も重要です。科学的に見ると、シロシビンやLSDの身体的依存リスクはアルコールやたばこと比較して低いとされていますが、こうした知見が一般市民に十分行き渡っていないことが、このデータから読み取れます。

使用者へのイメージは「創造的だが無責任」の二極化

使用者に対するソーシャルパーセプション(社会的な見方)も興味深い結果です。最も多かった印象は「オープンマインド」(48%)と「クリエイティブ」(37%)で、肯定的な評価が上位を占めました。しかし同時に、「依存症者」「無責任」がそれぞれ24%と、4人に1人は否定的なレッテルを貼っています。「道徳的」「賢い」と見る有権者は16〜17%にとどまり、使用者像は二極化していると言えます。

政治的立場による差も大きく、保守層では「依存症者」36%・「無責任」34%と否定的な見方が多い一方、リベラル層ではいずれも17%でした。

有権者が実際に知りたいこと

レポートの中で特に印象的なのは、回答者から寄せられた自由記述の質問です。「サイケデリックで幸せになれるのか」「うつ病やPTSDへの治療効果を裏付ける研究はあるのか」「脳細胞を破壊するのか」「依存性はあるのか」「合法化されたらどう監視するのか」——こうした率直な疑問は、市民の懐疑がただの拒絶ではなく、情報を求める姿勢の表れであることを示しています。

まとめ:サイケデリック世論は「慎重な楽観」の段階にある

バークレー大学の2025年調査が描き出すのは、「慎重な楽観」と呼べるフェーズです。サイケデリックとの接近度は過去最高を記録し、管理下での利用や科学研究への支持は着実に拡大しました。しかし安全性への懸念やスティグマは広く残り、専門家への信頼も十分ではありません。唯一過半数の強い支持を得たのは「研究をしやすくする」(63%)という提案だけであり、有権者の慎重さが際立ちます。

レポートが繰り返し強調するのは、この支持の広がりが「脆い」ものである可能性です。正確で科学的な情報が、さまざまな層が信頼する多様なチャネルを通じて届かなければ、世論は容易に逆方向にも動きかねません。画一的な政策や単一のメッセンジャーでは対応できず、多角的・多組織的なアプローチが求められています。レポートの著者らは、定性的な研究——なぜ特定の層で接近度が急増したのか、なぜ保守層と高齢者で懸念が強いのか——を今後の課題として挙げており、「何を」思っているかだけでなく「なぜ」そう思うのかの解明が次のステップだと述べています。

BCSPは今後も毎年この調査を実施し、サイケデリックに対する世論の変化を追い続ける予定です。日本ではサイケデリック療法に関する議論はまだ初期段階ですが、このデータから学べることは多いはずです。「危険な薬物か万能薬か」という極端な二項対立を避け、対象者・条件・安全管理の具体論を一つひとつ積み重ねていくこと——それがサイケデリックに対する社会の理解を深める最も確実な道筋ではないでしょうか。

Sgambati, T. J., Venezia, A., & Morgan, K. (2026). A rising tide of cautious support: UC Berkeley psychedelics survey results [Final report]. UC Berkeley Center for the Science of Psychedelics, University of California, Berkeley. https://psychedelics.berkeley.edu/wp-content/uploads/2026/05/Rising-Tide-Final.pdf

本記事は情報提供のみを目的としており、医療アドバイスではありません。
精神的・身体的な問題を抱えている方は、必ず医療専門家にご相談ください。
また、日本国内でのサイケデリック物質の所持・使用は法律で禁止されています。

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この記事を書いた人
ユウスケ

米国リベラルアーツカレッジを2020年心理学専攻で卒業。大手戦略コンサルティングファームにて製薬メーカーの営業・マーケティング戦略立案に従事するなかで、従来の保険医療の限界を実感。この経験を通じて、より根本的な心身のケアアプローチの必要性を確信し、サイケデリック医療を学ぶ。InnerTrekにてオレゴン州認定サイケデリック・ファシリテーター養成プログラム修了(Cohort 4)。

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