ケイシー・ミーンズ外科総監とRFK Jr.保健福祉長官の就任により、アメリカのサイケデリック療法政策が歴史的転換点を迎えています。両氏ともサイケデリック療法を公然と支持しており、連邦レベルでの規制緩和が現実味を帯びてきました。本記事では、新政権の政策方針、最新の臨床試験動向、そして合法化に向けた具体的な道筋について詳しく紹介します。
トランプ政権がサイケデリック療法合法化を推進する可能性が高い?

トランプ政権の保健医療分野における主要人事を分析すると、サイケデリック療法に対して前向きな姿勢を示す人物が多数登用されています。外科総監に就任したケイシー・ミーンズ医師は著書でシロシビン療法を推奨し、保健福祉長官のロバート・F・ケネディ・ジュニア氏はFDAの「サイケデリック抑制政策」を批判してきました。
これらの人事は、従来の保守的な薬事政策からの大きな転換を示唆しており、サイケデリック療法の合法化に向けた連邦政府の方針変更が現実味を帯びています。特に注目すべきは、新政権が「従来の製薬業界との癒着を断ち切る」というメッセージを強く打ち出していることです。
新政権の主要人物とサイケデリックへの姿勢
Casey Means外科総監のサイケデリック推奨

ケイシー・ミーンズ医師は2024年に出版した著書「Good Energy」において、「ガイド付きシロシビン療法を検討することを勧める」と明確に記述しています。同書は代謝健康と「良質なエネルギー」をテーマにしており、ストレス、トラウマ、思考パターンの管理と治療のための包括的なアプローチを提案しています。
「Good Energy」では、サイケデリック療法について詳細な解説を行っており、「もしあなたが呼ばれていると感じるなら、意図的でガイド付きのシロシビン療法を探求することを勧める」と述べています。彼女は自身の体験を踏まえ、「強力な科学的証拠により、このサイケデリック療法は一部の人々にとって人生で最も意味のある体験の一つとなり得ることが示されている」と評価しています。
外科総監という職務は、アメリカ国民に対して最良の科学的情報を提供し、健康改善の指導を行う重要な役割を担います。ミーンズ医師の就任は、サイケデリック療法に対する政府の公式見解が大幅に変化する可能性を示しています。
彼女の弟であるカリー・ミーンズ氏も、トランプ政権で健康政策アドバイザーとして活動しており、サイケデリック関連企業への投資経験を持つことから、政策決定における影響力が期待されています。
Calley Meansの影響力

カリー・ミーンズ氏は、サイケデリック療法の政策推進において重要な役割を果たしています。彼は2021年のブログ投稿で、シロシビン体験を「人生で最も意味のある体験」と評価し、医学的ガイダンス下でのサイケデリック使用を公共政策の優先事項とすべきだと主張しています。
彼の影響力は、単なる個人的信念を超えて、科学的研究への理解に基づいています。ジョンズ・ホプキンス大学、ニューヨーク大学、ハーバード大学などの研究機関による臨床試験結果を詳細に分析し、政策提言に活用しています。
RFK Jr.のHHS長官としての立場

ロバート・F・ケネディ・ジュニア氏は、保健福祉長官として薬事政策の最高責任者の地位に就きました。彼は2024年10月にFDAの「サイケデリック抑制政策」を強く批判し、「公衆衛生に対する戦争」と表現しています。
ケネディ氏の個人的な体験も政策形成に影響を与える可能性があります。15歳時のLSD体験について「素晴らしい体験だった」と述べる一方で、その後の薬物依存問題についても率直に語っており、適切な使用環境の重要性を理解していることがうかがえます。
現在のサイケデリック療法の法的地位と課題

連邦レベルでの規制状況
現在、シロシビンは連邦法において「医学的用途が認められておらず、乱用の可能性が高い」スケジュールI薬物に分類されています。この分類により、研究目的を除いて製造、流通、使用が禁止されており、医療現場での活用が大幅に制限されています。
しかし、FDAは近年、特定の条件下でサイケデリック療法に対する「画期的治療薬指定」を付与しています。これは「重篤または生命を脅かす疾患を治療し、既存療法に比べて臨床的に重要な改善を示す可能性がある薬物」に対する特別な承認経路です。
州レベルでの動き
オレゴン州、コロラド州、ニューメキシコ州は既にサイケデリック療法を合法化していますが、地域レベルでの対応にはばらつきが見られます。これらの州での実施状況は、連邦レベルでの政策決定における重要な参考データとなっています。
州レベルでの合法化の進展は、連邦政府に対して政策変更を促す圧力となっており、新政権にとって無視できない社会的要請となっています。
国際的な動向
アメリカ国内だけでなく、国際的にもサイケデリック療法への関心が高まっています。ニュージーランドは先日、医療目的でのシロシビン使用を承認し、世界的なサイケデリック療法の普及に向けた重要な一歩を踏み出しました。これらの国際的な動きも、アメリカの政策決定に影響を与える要因となっています。
科学的根拠と治療効果のエビデンス

シロシビンの臨床試験結果
ジョンズ・ホプキンス大学による2016年の研究では、がん患者に対する単回のシロシビン投与により、不安と抑うつが劇的に軽減され、その効果が少なくとも6か月間持続することが示されました。研究主任のスティーブン・ロス博士は「一度の投与でこれほど長期間の効果を示す薬物は精神医学分野では前例がない」と評価しています。
同年の別の研究では、参加者の67%がシロシビン体験を「人生で最も意味のある体験」または「人生で最も重要な体験の上位5つ」に位置づけており、その効果は「第一子の誕生や親の死」に匹敵するものでした。
インペリアル・カレッジ・ロンドンの最近の研究では、シロシビンがうつ病に対してSSRI抗うつ薬と同等の効果を示し、しかも「より迅速で、より大きな改善」をもたらすことが確認されています。
MDMA療法の研究動向と承認基準への影響
PTSD治療におけるMDMA補助療法についても、注目すべき研究結果が報告されています。カリフォルニア大学サンフランシスコ校の研究では、重度のPTSD患者群において、MDMA補助療法を受けたグループが従来の治療のみを受けたグループと比較して、症状の重篤度が有意に改善されました。
しかし、FDAは2024年にLykos Therapeutics社のMDMA補助療法の承認申請を見送りました。この決定は、臨床試験の設計、安全性データの不備、および一部の参加者が報告した自殺念慮などの副作用への懸念に基づいています。Lykos社の試験では、参加者の一部が治療過程で自殺念慮や自殺企図を経験したと報告されており、これらの情報が適切に開示されていなかったという指摘もありました。
サイケデリック療法の現在の臨床試験状況
現在、Compass Pathways社が治療抵抗性うつ病に対するシロシビン療法のフェーズIII臨床試験を実施中です。この試験は、従来の抗うつ薬では十分な効果が得られない患者を対象としており、サイケデリック療法の実用化に向けた重要なマイルストーンとなっています。
MDMA療法の承認見送りを受けて、FDA承認基準がより厳格になる可能性が指摘されています。今後のサイケデリック療法承認では、より強固な安全性データと、長期的な効果を示すエビデンスが求められると予想されます。この基準変更は、新政権の政策方針にも大きな影響を与える可能性があります。
合法化への障壁と解決策

承認基準の厳格化への対応
Lykos Therapeutics社のMDMA療法承認見送りは、サイケデリック療法業界全体に大きな影響を与えています。この決定により、FDAの承認基準がより厳格になることが予想され、今後の臨床試験では以下の要素がより重視されるでしょう:
- 長期的な安全性データの収集と適切な開示
- 副作用の詳細な追跡と報告
- 治療プロトコルの標準化
- 医療従事者の専門的トレーニング体制の確立
新政権は、これらの課題に対応しながら、適切な規制の枠組みを構築する必要があります。厳格な安全性基準を維持しつつ、有効性が確認された治療法へのアクセスを確保するバランスが求められます。
安全性への懸念
サイケデリック療法の合法化に向けた課題として、安全性に関する懸念も重要な要素です。シロシビンは数時間にわたる幻覚作用を引き起こし、それが快適な体験となる場合もあれば、恐怖体験となる場合もあります。監督なしでの使用は、交通事故やその他のリスクを増大させる可能性があります。
しかし、適切な医学的監督下での使用においては、これらのリスクは大幅に軽減されます。新政権の政策では、厳格なガイドライン設定と医療従事者の専門的トレーニングが重要な要素となるでしょう。
社会的偏見の克服
サイケデリックに対する社会的偏見は、1970年代のニクソン政権による禁止政策以来、深く根付いています。ニクソン大統領は、サイケデリックが「自立的思考を促進しすぎる」ことを懸念し、ベトナム戦争への徴兵に悪影響を与えるとして全面禁止措置を導入しました。
新政権の成功には、科学的根拠に基づく情報提供と、医療専門家による適切な教育プログラムの実施が不可欠です。偏見の払拭には時間を要しますが、研究成果の蓄積と成功事例の紹介により、社会的受容は徐々に進展すると予想されます。
まとめ:サイケデリック療法の未来展望
トランプ政権におけるサイケデリック療法の合法化は、単なる規制緩和を超えて、アメリカの医療政策における歴史的転換点となる可能性があります。新政権の主要人物がサイケデリック療法に対して前向きな姿勢を示していることは、政策実現の可能性を大幅に高めています。
ただし、Lykos社のMDMA療法承認見送りにより、合法化への道筋はより慎重なアプローチが必要となりました。安全性の確保、適切な医学的監督体制の構築、社会的偏見の克服に加えて、より厳格な承認基準への対応が求められます。
一方で、Compass Pathways社のシロシビン療法フェーズIII試験の進展や、ニュージーランドでの医療用シロシビン承認など、国際的な動向は前向きな傾向を示しています。科学的根拠の蓄積も着実に進んでおり、特にシロシビンについては従来の治療法を上回る効果が確認されています。
新政権の政策次第では、2025年から2026年にかけて、アメリカはサイケデリック療法の世界的リーダーとしての地位を確立する可能性があります。ケイシー・ミーンズ外科総監の「Good Energy」で示された統合的健康アプローチと、RFK Jr.の製薬業界改革への意欲が組み合わされば、革新的な治療選択肢の実現が期待されます。
サイケデリック療法の合法化は、うつ病、PTSD、依存症などの治療において革命的な変化をもたらし、数百万人のアメリカ国民にとって新たな希望となるでしょう。この歴史的な政策転換の行方に、世界中の注目が集まっています。
Smith, M. R. (2025, May 14). Trump’s new surgeon general nominee praises unproven psychedelic therapy. PBS NewsHour. Retrieved from https://www.pbs.org/newshour/health
本記事は情報提供のみを目的としており、医療アドバイスではありません。
精神的・身体的な問題を抱えている方は、必ず医療専門家にご相談ください。
また、日本国内でのサイケデリック物質の所持・使用は法律で禁止されています。