オレゴン州シロシビン合法化から2年経った今|現状と課題とは?

法律・規制

世界が注目するオレゴン州の革新的な取り組みから、初の包括的データが公開され、その成果と課題がはっきりしてきました。1万人以上が利用し130万ドルの市場ができた一方で、高額費用による格差や事業者の相次ぐ撤退など深刻な問題も起きています。本記事では、2年間の運営実績から見えてきた現実について詳しく紹介します。

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オレゴン州シロシビンサービス法の背景

2020年11月、オレゴン州で歴史的な住民投票「Measure 109(シロシビンサービス法)」が可決されました。この法律により、オレゴン州は世界で初めて州レベルでシロシビンの治療的使用を合法化した地域となり、2023年1月から正式にサービスが開始されています。

同法では、21歳以上の成人に対して、ライセンスを受けた施設での監督下シロシビンセッションを合法化しています。医師の処方箋は不要で、うつ病や不安障害などの精神的症状から、個人的成長や自己探求まで幅広い目的での利用が認められています。

全体状況:期待と現実のギャップが浮き彫りに

オレゴン州は2023年1月にシロシビンサービスを開始し、世界初の州レベルでの合法的なサイケデリック療法プログラムを実現しました。2年間の運営でわかったのは、一定の成果と同時に深刻な課題があることです。

成果面では、1万人以上のクライアントがサービスを利用し、27,000以上のシロシビン製品が販売され、130万ドル以上の収益を生み出しています。安全性についても99.6%以上のセッションが事故なく完了するなど、良い結果を示しています。

しかし、高額な費用設定により利用者が高所得層に偏っている点、サービスセンターの閉鎖が相次いでいる点、人種・地域格差がある点など、制度が続けられるかどうか、公平かどうかという大きな問題も見えてきました。これらの問題は、今後の政策改善と他地域での制度設計において重要な教訓となっています。

市場動向:成長継続も競争激化で価格下落

市場動向:成長継続も競争激化で価格下落

利用者数と売上の実績

シロシビン製品の売り上げ傾向

オレゴン州のシロシビンサービスは順調な成長を続けており、2025年第1四半期だけで1,509人のクライアントがサービスを利用しました。このうち1,368件が個人セッション、197件がグループセッション(平均3.17人)となっています。

売上面では興味深い傾向があります。製品販売数は年々増えているのに対し、シロシビン製品あたりの平均価格は2023年の約85ドル(約12,750円)から2026年予測で約50ドル(約7,500円)まで下がっています。この価格下落は、ライセンスを取得したシロシビン製造業者が増えて競争が激しくなったことが原因と考えられます。

グループセッションの利用も注目すべき傾向です。グループセッションは300~500ドル(約45,000~75,000円)程度で利用でき、個人セッションの1,000~5,000ドルと比べてかなり安価となっています。利用者が平均1.5回のセッションを受けていることを考えると、今後はより手頃なグループセッションの需要が高まりそうです。

アクセス格差:高所得層に偏り深刻な不平等が発生

サイケデリック療法

高額な費用による利用者の偏り

シロシビンサービスの最大の課題の一つが高額な費用設定となっています。保険適用範囲外のため、基本自費での負担となり、個人セッションは1,000~5,000ドル(約15万~75万円)、高級パッケージでは5日間で15,000ドルという設定もあります。これらの費用には宿泊費や食事代は含まれていても、交通費や同伴者の費用は別途必要で、総費用はさらに膨らみます。

この高額設定の影響は利用者の経済状況にはっきりと表れています。オレゴン州の世帯年収中央値は約88,000ドル(約1,320万円)ですが、シロシビンサービス利用者の推定平均年収は約136,000ドル(約20,40万円)と大幅に上回っています。また、利用者の平均年齢も44.5歳と高く、経済的余裕のある中高年層に利用が集中している実態がわかります。

利用者特性:多様なニーズと顕著な格差

利用者特性:多様なニーズと顕著な格差

オレゴン州のシロシビンサービス利用者の特徴を詳しく分析すると、多様な背景を持つ人々がサービスを求めている一方で、アクセスには明確な格差があることがわかります。

利用目的の多様性

2025年1月に施行されたSB303法により、サービスセンターはクライアントの人口統計情報の収集と四半期報告が義務化されました。これにより、利用目的の詳細な分析ができるようになりました。

最も多い利用目的は「ウェルネスと自己探求」で、意識の拡張、視点の転換、創造性の向上、全般的な健康増進を求める人々が大きな割合を占めています。次に多いのが「精神的・感情的健康」で、重度のPTSD、うつ病、不安障害などの精神健康問題を抱える人々が利用しています。

この利用目的の多様性は、シロシビンが医療用途だけでなく、個人の成長や自己実現のためのツールとしても活用されていることを示しています。従来の医療システムでは対応が難しい領域での需要があることは、サイケデリック療法の潜在的価値を物語っています。

シロシビン療法の主な目的

人種・民族・地域的な偏り

また、利用者の人種・民族構成を見ると、明確な偏りがあることがわかります。西欧系の利用者が約46.8%、東欧系が約15%を占める一方で、ヒスパニック系・ラテン系は約8%に留まっています。これは、オレゴン州人口におけるヒスパニック系・ラテン系の約14%を大幅に下回る数値となっています。

さらに、地域的な分析では、オレゴン州内の利用者は428人で、州外からの利用者が40%以上を占めています。州内では都市部への集中が目立ち、Jackson郡とMultnomah郡がそれぞれ州内利用者の20%以上を占めています。この背景には、都市計画規制により多くのサービスセンターが都市部にあることや、認知度と経済状況が都市部で高いことが影響しています。

特に注目すべきは、多くの都市や郡がその管轄区域内でのシロシビンサービスを禁止していることです。これにより、一部の地域の住民は最寄りのセンターまで数百キロにも及ぶ移動が必要で、アクセスの地域格差が深刻な問題となっています。

規制運営:安全性の確保と制度的課題

オレゴン州のシロシビンセンター

オレゴン州のシロシビンサービスプログラムは、安全性の確保を最優先課題として運営されており、これまでの実績は良い結果を示していますが、同時に、ライセンス制度の運営には複雑な課題があることも明らかになってきました。

優れた安全性実績

2023年夏のサービス開始以来、34のサービスセンターで26,500以上のシロシビン製品が販売されましたが、緊急報告はわずか13件に留まっています。2025年第1四半期の1,500以上のセッションにおいて、副作用事例は極めて稀で、製品リコールは発生していません。

具体的な副作用報告内容を見ると、行動面での重篤な事例(入院が必要)が2件、医療面での軽度事例(入院不要の医療ケア)が3件となっています。セッション後72時間以内の遅発性副作用報告は0件で、99.6%以上のセッションが事故なく完了している計算になります。概ね、経験を積んだファシリテーターの下でのシロシビン使用は安全と言えるでしょう。

ただし、この安全性データには注意深い解釈が必要です。オレゴン州の副作用定義は臨床試験の基準よりも狭く、緊急サービスや入院を要する事例のみを対象としています。軽度の副作用や長期的な影響については十分な追跡が行われていない可能性があります。

ライセンス制度の複雑な課題

ライセンス別の承認数

オレゴン州のシロシビンサービスには4つのライセンス区分があります。ファシリテーター(セッション実施者)、製造業者、サービスセンター、検査機関です。2025年6月時点で合計543のライセンスが承認されています。

最も多いのはファシリテーターライセンスで、全申請の90.43%にあたる367件が承認されています。興味深いことに、ファシリテーターライセンスの拒否事例は0件となっています。この背景には、6,000~12,000ドルの高額なトレーニング費用と、トレーニングプログラム自体が候補者の評価と推薦を行う仕組みがあります。

しかし、ファシリテーターの供給過多が新たな問題となっています。2025年第2四半期のファシリテーター承認数は第1四半期と比べて50%以上減少しており、雇用機会の不足が深刻化しています。多くのファシリテーターがOPS内でのフルタイム雇用を確保できない状況にあり、経験豊富な人材の流出が心配されています。

サービスセンターライセンスについては、34件が承認されているものの、9件が既に閉鎖しており、実際に運営中なのは25センターのみです。閉鎖の主要因は年間10,000ドルのライセンス料、必須のセキュリティインフラ、厳格な保管プロトコルによる高額な運営費用です。また、SB303による管理負担の増加も、センター運営を困難にしている要因の一つになっています。

まとめ:日本への示唆と今後の展望

オレゴン州のシロシビン合法化プログラムは、世界初の州レベルでの取り組みとして貴重な知見を提供しています。2年間の運営実績からは、サイケデリック療法の医学的・社会的潜在性と同時に、制度設計の重要性がはっきりと示されています。

プログラムの成功要素として、厳格な安全管理体制による高い安全性の維持、多様な利用目的に対応できる柔軟なサービス提供、継続的なデータ収集による透明性の確保が挙げられます。特に99.6%以上の事故なし実績は、適切な規制と専門的な指導のもとでシロシビンが安全に利用できることを実証しています。

一方で、深刻な課題も見えてきました。高額な費用設定による利用者の経済的偏り、人種・民族・地域格差の存在、サービスセンターの継続可能性の問題は、制度の公平性と長期的な継続性に関わる重要な課題です。特に、利用者の平均年収が州平均を大幅に上回る状況は、真に必要とする人々へのアクセス確保という観点で問題があります。

日本における将来的なサイケデリック療法の検討においては、オレゴン州の経験からさまざまな教訓を得ることができます。まず、安全性の確保は厳格な規制と専門的な訓練により実現できること。さらに、費用の公平性とアクセスの平等性は制度設計の初期段階から慎重に検討すべき要素であること。そして、継続的なデータ収集と透明性の確保が制度の改善と社会的信頼の獲得に不可欠であることです。

オレゴン州のプログラムは現在も発展途上にあり、今後の四半期データが制度の成熟度と持続可能性を判断する重要な指標となります。日本の医療・規制当局にとって、この世界初の取り組みは貴重な先行事例として、将来的な政策検討の基礎資料となることが期待されます。サイケデリック療法の可能性と課題を客観的に評価し、日本の文化的・社会的文脈に適した制度設計を検討していくことがますます重要になってくるでしょう。

Alpha, P. (2025, July 4). Oregon Psilocybin Services Tracker: Q1 2025 – Psychedelic Alpha. Psychedelic Alpha. https://psychedelicalpha.com/news/oregon-psilocybin-services-tracker-q1-2025

Wilk, N. (2025, July 2). Oregon psilocybin therapy clients tend to be wealthier, new data suggests. KLCC | NPR for Oregonians. https://www.klcc.org/health-medicine/2025-07-02/oregon-psilocybin-therapy-clients-tend-to-be-wealthier-new-data-suggests

この記事を書いた人
Yusuke

米国リベラルアーツカレッジを2020年心理学専攻で卒業。大手戦略コンサルティングファームにて製薬メーカーの営業・マーケティング戦略立案に従事するなかで、従来の保険医療の限界を実感。この経験を通じて、より根本的な心身のケアアプローチの必要性を確信し、現在はオレゴン州認定プログラムInnerTrekにてサイケデリック・ファシリテーターの養成講座を受講中(2025年資格取得予定)。

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