「臨床試験に参加すれば、最先端のサイケデリック療法を受けられるかもしれない」。そう願って参加した人たちは、実際にどのような体験をしたのでしょうか。本記事では、元参加者自身が研究に加わった最新の質的研究をもとに、試験参加の実態と5つのテーマ、そして今後の治療に向けた提言について紹介します。
臨床試験の参加者が求めるもの:投与日だけでなく「前後の支え」がサイケデリック療法の質を左右する

サイケデリック療法の臨床試験で参加者の体験を大きく左右しているのは、薬そのものだけではありません。最初の問い合わせへの返信、スクリーニング(適格性の審査)での言葉づかい、ファシリテーターとの信頼関係、そして試験が終わったあとの支え。こうした「薬の外側」にある要素が、体験の質を形づくっていることが、元参加者たちの証言から浮かび上がってきました。
この知見を示したのは、2026年10月に学術誌『フロンティアーズ・イン・サイカイアトリー』に掲載された質的研究です(Seynaeve et al., 2026)。キングス・カレッジ・ロンドンの研究者らと、臨床試験の元参加者でつくる当事者団体が協働し、参加の全プロセスを振り返りました。
たとえば、ある参加者は試験への応募から返信まで9か月も待たされ、その沈黙自体が症状を悪化させたと語っています。別の参加者は、投与日の体験は深い気づきをもたらしたものの、「では、ここからどうやって回復を続ければいいのか」という問いに一人で向き合うことになりました。
つまり、シロシビンなどを投与する日は「ゴール」ではなく、長いプロセスの「通過点」です。サイケデリック療法が今後承認され、医療として広がっていくのであれば、投与の前後をどう支えるかという設計こそが重要になります。
研究の概要:元参加者4人が「経験の専門家」として語ったフォーカスグループ研究

この研究の特徴は、元参加者を単なる「調査対象」ではなく、「経験による専門家(エキスパート・バイ・エクスペリエンス)」として位置づけた点にあります。
当事者団体PsyPANとは
研究に協力したのは、英国を拠点とする非営利団体「サイケデリック参加者アドボカシー・ネットワーク(PsyPAN)」です。サイケデリック臨床試験の元参加者が集まり、参加者の声を研究や治療の設計に反映させることを目指して活動しています。メンバーは自分の体験を何年もかけて振り返り、ほかの参加者と語り合い、学会やメディアでも発信してきました。いわば、個人の体験を「集合的な知恵」へと磨き上げてきた人たちです。
研究の方法
研究には4人の元参加者(男性2人、女性2人)が参加しました。そのうち3人は治療抵抗性うつ病(複数の治療を試しても十分に改善しないうつ病)を対象としたシロシビンまたはDMTの試験に、1人は摂食障害を対象としたシロシビンの試験に参加した経験を持ちます。試験の結果も、大きな効果があった人から、一時的な改善にとどまった人、期待外れに終わった人までさまざまでした。
研究チームは「募集・スクリーニング」「準備と投与」「投与後のインテグレーションと試験終了後」という3つのテーマで、オンラインのフォーカスグループ(少人数での座談会形式の聞き取り)を3回実施しました。その後、対面での1日ワークショップで分析結果を見直し、70人以上が所属するPsyPAN全体からも意見を集めて提言をまとめています。分析には、語りのなかから共通する意味のパターンを丁寧に拾い上げる「再帰的テーマ分析」という手法が使われました。
なぜ参加者の声が重要なのか
サイケデリック療法の研究は、効果を数値で測る量的研究が中心で、参加者が何を感じたのかを掘り下げる質的研究は多くありません。ところが、サイケデリック体験は期待や環境の影響を強く受けるため、数値だけでは見えない部分が大きいのです。体温計だけで料理の味を評価できないように、症状スケールだけでは参加者の体験の全体像はつかめません。そこで当事者の語りが重要な手がかりになります。
セットとセッティングの拡張:臨床試験という環境そのものが体験を形づくる

この研究の最も重要な提案は、サイケデリック研究の古典的な概念である「セットとセッティング」を、臨床試験という文脈全体にまで広げて考えるべきだという点です。
セット・セッティング・マトリックスとは
「セット」とは、参加者の内面の状態を指します。性格、期待、不安、過去の経験などがこれにあたります。「セッティング」は、投与が行われる部屋やスタッフの振る舞いといった外的な環境のことです。さらに心理学者ベティ・アイズナーは、参加者が日常を送り、試験後に戻っていく家族や地域社会などの広い環境を「マトリックス」と呼びました(Eisner, 1997)。
植物にたとえるなら、セットは種の状態、セッティングは植える鉢、マトリックスは鉢を置く庭全体の気候のようなものです。どれか一つが欠けても、芽はうまく育ちません。
「治療」を求めて来たのに「試験」に出会う
5つのテーマの1つ目は、参加者の動機と試験の目的とのズレです。参加者たちは、薬物療法や認知行動療法などを長年試しても効果がなく、「新しい治療を受けたい」という切実な思いで応募していました。
一方で、臨床試験の目的は治療を提供することではなく、安全性と有効性を科学的に確かめることにあります。そのため、厳しい適格基準、プラセボ(偽薬)を受け取るかもしれない無作為割り付け、どちらを受けたかわからない盲検化、決められたスケジュールといった、参加者の願いとは必ずしも一致しない手続きが組み込まれています。
参加者たちはスクリーニングを「ふるい落とすための審査」と感じていました。「必要性は伝えたいが、リスクが高いと思われたら外される」という綱渡りのような心理状態に置かれていたのです。さらに、時間や交通費の負担が大きいため、低所得の人や子育て中の人は参加しにくいという公平性の問題も指摘されました。
最初の連絡から関係は始まっている
2つ目のテーマとして、研究チームは「研究のセットとセッティング」という考え方を提示しています。参加者の一人は、セッティングづくりは投与日ではなく、最初の連絡や事務的な書類のやり取りから始まっていると強調しました。
具体的には、問い合わせへの返信や今後の見通しを伝えること、不適格になった場合はメールではなく電話や対面で丁寧に説明し、ほかの支援先を紹介することなどが求められています。こうした小さな配慮の積み重ねが、のちの投与日に「この人たちになら身を委ねられる」という信頼の土台になります。
準備と投与日:ファシリテーターが果たす「仲介役」の役割

3つ目のテーマは、ファシリテーターが試験の規則と参加者の心身のニーズとをつなぐ「仲介役」になっているという点です。
信頼が「手放す」ことを可能にする
サイケデリック体験では、コントロールを手放し、浮かび上がる感情や記憶に身を委ねることが重要だとされます。参加者たちは、準備期間に築いた信頼があったからこそ、投与中につらい場面に入っていけたと語っています。
ただし、幼少期の逆境体験や医療者への不信感を抱える人にとって、わずか数回の準備セッションで心を開くのは簡単ではありません。ある参加者は、半年以上かけて関係を築けたことが深い体験につながったと振り返っています。
ファシリテーターの姿勢として高く評価されたのは、「答えを知っている専門家」として振る舞うのではなく、参加者の隣に立つ「道案内役」であることでした。地形を知っている山岳ガイドが、登山者自身の足で頂上を目指せるよう支えるイメージです。投与中に不安になった参加者に「今日はあなたの日です」と声をかけた一言が、何年経っても心に残っていると語る人もいました。
準備段階で役立ったツール
参加者たちは、準備段階で教わったいくつかの具体的な工夫が投与日に役立ったと述べています。主なものは次のとおりです。
- 投与中にファシリテーターが何をしているのか、どう関わるのかを事前に説明してもらうことで、不安が和らぎました。ある試験では、自分を「客室乗務員」にたとえて説明していたそうです。
- 呼吸法やボディスキャン(体の感覚を順番に観察する瞑想法)を準備セッションで練習しておくと、投与中につらくなった際に自分を落ち着かせる手段になりました。
- 投与室を事前に見学し、アイマスクやヘッドホン、毛布などを試しておく「リハーサル」によって、当日の戸惑いが減りました。説明なく重い毛布を掛けられて不快だったという声もあり、細部の確認が大切だとわかります。
また、どの体験にも価値がありうると事前に伝えておくことも重要です。参加者の一人は、最も低い用量で人生で最も感情的に強い体験をしたと語り、別の参加者は、強烈な体験ほど癒やしの効果が大きいとは限らないと述べています。「強ければ良い」という思い込みは、かえって失望を招きかねません。
身体接触(タッチ)と同意
投与中の身体接触は、議論の分かれるテーマです。参加者のなかには、肩や背中に手を添えてもらうことで安心感が増し、言葉にならない感情を処理できたと語る人がいました。手が離れた瞬間に「最終的には自分で背負っていくのだ」と象徴的に理解した人もいます。
その一方で、過去のトラウマから身体接触に強い抵抗を感じる人もいます。そのため参加者たちは、事前にどこまでの接触を許可するかを話し合い、同意をいつでも撤回できる仕組みを整えることを求めました。安全対策としてセッションを録画することは、接触を一切なくすよりも望ましいという意見で一致しています。
投与後と試験終了:インテグレーションは「始まり」にすぎない

4つ目のテーマは、投与が変化のプロセスの「始まり」として経験されたこと、5つ目は試験終了後の支援が足りていないことです。
変化は一直線には進まない
インテグレーションとは、サイケデリック体験で得た気づきを日常生活に統合していくプロセスを指します。参加者たちは、このプロセスが薬の効果が薄れていく時点から始まり、試験終了後も長く続くと感じていました。
ある参加者は、事前に誰も教えてくれなかった最も重要なことは「これは治癒ではなく、プロセスの始まりだ」という点だったと振り返っています。変化は数日後に現れることもあれば、数か月かけてじわじわ表れることもありました。また、良い変化であっても急激すぎると、生活がついていけずに戸惑うことがあるといいます。
投与当日の夜は刺激を避け、誰に体験を話すかを慎重に選ぶようにとの助言が役立ったという声もありました。周囲から「どう効いたの?」と質問攻めにされると、まだ言葉にならない体験が窮屈な物語に押し込められてしまうからです。
期待外れと「失敗した」という感覚
効果が感じられなかったり、改善が一時的だったりした参加者は、強い失望を経験しました。なかには「チームの期待に応えられなかった」と自分を責め、恥の感情を抱いた人もいます。
ここで大きな役割を果たしたのが、翌日のインテグレーション面談です。ある参加者は、精神科医から「欲しいものは得られなかったかもしれないが、必要なものは得られたのかもしれない」という見方を示され、新たな治療の道に踏み出すきっかけになったと語っています。日記を書く、体を動かす、自然に触れる、投与時のプレイリストを聴き直すなど、自分に合った方法を探すことも助けになりました。
試験終了の喪失感とピアサポート
ファシリテーターと深い信頼関係を築いた参加者ほど、試験の終わりに喪失感や悲しみを覚えていました。さらに全員が、試験後にも継続的な支援があればよかったと感じています。サイケデリック体験を理解しているセラピストは見つけにくく、従来の精神医療に戻ると物足りなさを感じたという声もありました。症状が戻ってきたとき、自己判断での使用を考えた人もいましたが、試験と同じ支えのある環境は再現できないとも認識していました。
こうした経験から参加者たちが強く求めたのが、試験の元参加者同士が集まる、独立したピアサポート(当事者同士の支え合い)の場です。一般的なサイケデリック・コミュニティとは異なり、臨床試験という特殊な状況を共有する仲間だからこそ、わかり合える部分があるといいます。
今後の試験と治療への提言:参加者中心の設計に向けて

研究チームは、これらの知見をもとに、段階ごとの具体的な提言をまとめました。それぞれの提言は、無作為化比較試験(RCT)、非盲検試験、そして承認後の治療提供のどれに適用しやすいかで分類されています。
主な提言のポイント
提言の中心にあるのは、「研究」と「治療」の違いを最初から明確に伝えることです。プラセボに割り付けられる可能性や、効果が出ない・長続きしない可能性も含めて説明し、過度な期待を和らげることが求められています。
あわせて、ファシリテーターだけでなく受付や評価担当を含むすべてのスタッフへのトレーニング、準備から投与・インテグレーションまで同じスタッフが担当する継続性、家族やかかりつけ医への情報提供が挙げられました。さらに、試験終了を見据えたお別れのプロセスづくりや、主要評価が終わった後のピアサポート導入も提案されています。
科学的な厳密さとの両立という課題
もちろん、すべての提言をそのまま実行できるわけではありません。薬の効果を正確に測るには、手続きの標準化や盲検化が欠かせないからです。研究者たちもこの緊張関係を認めたうえで、試験では難しい提言も、承認後の治療提供には活かせると述べています。
研究の限界
この研究には限界もあります。参加者は英国の試験に参加した白人4人のみで、全員が当事者団体で活動している人たちでした。スクリーニングで不適格になった人や途中で離脱した人の声は含まれていません。また、研究はサイケデリック医薬品を開発する企業の取り組みとして始まったものであり(参加者はいずれも同社の試験には参加していません)、その立場が分析に影響した可能性も著者自身が認めています。今回の提言は、今後さらに検証されるべき「設計上の検討事項」として受け止めるのが適切です。
まとめ:サイケデリック療法の成否は「薬の外側」にも宿る
元参加者の声から見えてきたのは、サイケデリック療法の臨床試験が、投与日という一点ではなく、最初の連絡から試験終了後まで続く長い道のりだということでした。
参加者たちは治療を求めて試験に参加しますが、そこで出会うのは科学的な手続きです。そのズレを埋めるのが、丁寧なコミュニケーション、信頼できるファシリテーター、そして試験後も続く支え合いの場でした。シロシビンの効果を最大限に引き出すには、薬そのものと同じくらい、その周囲の環境を整えることが大切です。
これからサイケデリック療法が医療として社会に根づいていくなかで、「参加者の声を聞く」という姿勢は欠かせません。当事者の経験から学ぶことこそが、より安全で、より人にやさしい治療をつくる第一歩になるのではないでしょうか。
Seynaeve, M., Schneider, L., Roullier, I., Lazenby, K., Lilley, C., Lobo, S., Ermakova, A. O., Wells, H., Cleare, A., & Rucker, J. (2026). Participant experiences and recommendations for psychedelic clinical trials and future treatment delivery: A qualitative study with experts by experience from the Psychedelic Participant Advocacy Network. Frontiers in Psychiatry, 17, 1682810. https://doi.org/10.3389/fpsyt.2026.1682810
本記事は情報提供のみを目的としており、医療アドバイスではありません。
精神的・身体的な問題を抱えている方は、必ず医療専門家にご相談ください。
また、日本国内でのサイケデリック物質の所持・使用は法律で禁止されています。

